暦(カレンダー)は生活や仕事には欠かせないものだ。
8月○日はパートナー団体との打ち合わせ、△日はNGOネットワークの会議、×日は祝日で事務所が休み、などなど。しかしネパールではその暦が1つならず、2つ、3つ以上存在しているので、混乱することが多々ある。ここでは、私たちにとってなじみの深いグレゴリオ暦(いわゆる西暦)ではなく、人々はネパール暦を基本に生活をしている。ネパール暦は太陰太陽暦といって、月の満ち欠け周期に季節循環を複合させたものなのだそうだ。ちなみに今日、西暦2006年8月12日はネパール暦では2063年サウン(4月)27日に当る。
月の満ち欠け周期は29.5日、1ヶ月を29日(小の月)ち30日(大の月)として作られたのがイスラム暦に代表される「太陰暦」である。ただ、この太陰暦、一年が354日しかないため、季節の巡りとは一致せず毎年約11日ずつずれてしまう。だから「暑い時期にラマダン(断食月)が当ると大変なんだよねえ」なんて事を、ダッカのスタッフが言っていたわけだ。ちなみに私がダッカに駐在していた時は、ラマダンが比較的涼しい11月頃に当っていた。日中の気温が35度以上になる4月や5月だったら、日の出から日の入りまで水すら口にできない生活は確かに大変だろうと思う。
一方、「ネパール暦」では、4月の中旬から一年が始まる。月によって28日だったり32日だったりして(しかも毎年変わるらしい)やっかいだが、微妙な(?)調整の結果、季節の巡りと暦が連動するものになっている。年度初めに事務所休日を決める際、まず西暦とネパール暦を比較できる一覧を作り、その上に祝日をのせて決めるという至極面倒な作業をしなくてはいけなかった。そのときは単に面倒としか思わなかったものの、ネパールでの生活をしていく中で、少しずつそのリズムのようなものを理にかなったものとして体感し始めている。
少し前のことだが、7月30日にナガ・パンチャミというお祭りがあった。蛇の神様を祀る日で、雨をコントロールし、邪悪なものを追い払う力を持っていると信じられているらしい。ナガは蛇、パンチャミは満月もしくは新月から数えて5日目の月を指すのだそうだ。
先日スタッフに「最近ずいぶん朝晩涼しくなってきたね」と話しかけると、ナガ・パンチャミから暦の上では秋になり、実際気候の変わり目にも当るのだと教えてくれた。つまりこれから秋、そして冬を迎え、再び2月のパンチャミ(スリ・パンチャミ)頃から春の兆しが現れて暖かくなっていくのだという。
最近ネパールは、ヒンドゥを国教としない世俗国家宣言がなされたばかりだ。それに続いて、ヒンドゥ色の濃い祝日の見直しを求める声も聞こえてきている。ネパールの人たちが決めることであって、私はその是非を論ずる気はないが、長い時間の中から生まれてきたネパール固有の暦として残ってくれたらいいなと個人的には思っている。
「○月×ガテ(ネパール暦の「日」を表す言葉)に会議をするのでお越しください」と言われると、対照表を引っ張り出して確認しなくちゃいけないのは、実際面倒だけど。