今朝の新聞に、グラミン銀行創設者のユヌス氏からバングラデシュ国民に宛てた公開レターが発表されました。訳は私がばばっとやったのでちょっといい加減ですが、だいたい以下のような内容です。

「国民のみなさん、皆さん一人一人のご意見を聞かせていただければと思ってこの手紙を書いています。私に政治に参加してほしいという声があがっていて、それについて私が考えなければならない状況にあるのは皆さんもご存じの通りです。皆さん同様、私も、わが国の政治体質が、この国に何をもたらしてきたか、この国の未来の可能性をいかに壊してきたか、ということをこの目で見てきました。現在の選挙管理内閣が様々な改革を通じて私たちが受け入れられるような政治環境をつくってきたのを見て、私も国民の皆さんと同じく、楽観的に考えられるようになりました。今こそ、私は、国民の皆さんの期待に応えて、政治に参加し、この国を本来あるべき高さまで引っ張っていくという仕事をすべきだと心から感じています。これまでの政治体質を変えなければ、私たちが目指すゴールにたどりつけないことは誰の目にも明らかです。それはこの政治体質に包括的な変化をもたらすことによってのみ達成できるのです。(後略)」

公開レターはまだまだ続きますが、その中でユヌス氏は、新しい政党づくりについての国民からのアドバイスを求め、またこの手紙を受け取る「あなた」(国民)がそこでどんな役割を担うことができるかを尋ねています。文末にはこの手紙への返信の宛先が書かれ、手紙でもメールでも、電話でも返事ができるようになっています。もし、国民から前向きな反応が得られなければ、政界出馬は取り消す考えとのことです。このような形でまず国民に意見を聞く、というのは、迷った末にユヌス氏が選んだ方法なのでしょう。

さて、このユヌス氏の動きについて、バングラデシュの人たちはどんな考えを持っているのでしょうか?

本当は学生さんなどにも聞いてみたいところですが、とりあえずわがダッカ事務所のスタッフたちに「どう思う?あなたは返事を出す?」と聞いてみました。少なくとも二人は、「今日メールで返事を出す」と言っていましたが、ユヌス氏出馬にイエスか、ノーか、という問いにはどうも「ノー」が多いようです。あくまでわが事務所の限られた人数のスタッフの意見ですが、以下参考までにご紹介。

スタッフA:ぼくは今日、「サー、やめてください」とメールするつもり。なぜなら、彼には政治の中心に自分自身が乗り込んでいくより、プレッシャーグループとして存在するほうが意味があると思うから。国際的にも影響力があり、誰もがその発言に一目置くような人というのはそうそういない。ユヌスさんには、政治の担い手が入れ替わっても、ずっとその動きを監視し、アドバイスをする、という立場にいてほしい。

スタッフB:ユヌス氏が政界出馬を考えた背景には、アメリカのプレッシャーがあるんじゃないかな。今度アメリカの大統領はヒラリー・クリントンでしょう?ユヌス氏がクリントン夫妻と親しいのは有名な話。バングラデシュでは誰かこれまでの政党政治に属さない人で、変化をもたらす人が必要だ。クリントン夫妻がユヌス氏に直接要請してきたんじゃないか?

スタッフC:ユヌス氏は前にも自分の政党を立ち上げようとして呼びかけたことがあるけど、人が集まらなかった。それに前の選挙のときはBNPを支持していたはずだ。バングラデシュの政治が大混乱にあるときには何もしないで、今これだけお膳立てができてからご登場、というのはちょっとどうなのかな。

スタッフD:新しい政党をつくるには時間がかかる。そんなに短い時間でできることじゃないと思うよ。かといって既存の政党から出たのでは意味がないし。ユヌスさんには全国にこれだけグラミン銀行のメンバーや支援者がいるから、そこで票がとれるという目算があるんじゃないかと思うけど、それと政治はべつの話だよね。心意気は買うけど、難しいと思う。

たまたま今朝意見を聞かせてくれた上記4人は全員「ノー」みたいで、かなりコメントも辛口ですが、もうひとり「ユヌスさんにはメールする、でもその内容はヒミツ」と言っているスタッフがいて、彼は「イエス」なんじゃないかと思います。うちのスタッフは悲観的でシニカルな人が揃っているのか?と思われるかもしれませんが、そうでもないでしょう。まあ、ダッカに住む中流階級のNGO関係者の意見というのは、だいたい上の4人と似たり寄ったりの人が多いんじゃないかと思います。

機会があれば、ビジネスマンや若者の意見も聞いてみたいですね。新聞紙上にも明日以降、続々と集まってくる国民からの返信が掲載されるでしょう。

さあどうなる?ユヌスさん、そしてバングラデシュ?