今週は水・木と一泊二日でジナイダ県のWE(Welfare Effort)というNGOを訪問していました。ここはショリファさんという女性の代表が、結婚してジナイダ県に移り住んでから始めたNGOで、女性のエンパワーメントのためにとてもよい活動をしていると前から聞いていたので、一度活動を見せてもらいたかったんです。
WEは、バングラデシュ内でもよく知られているAin o Salish Kendra (アイノシャリシュケンドロ)という弁護士さんたちがつくった人権保護や法的支援にとりくむNGOの協力を得て、女性たちに結婚や離婚などに関わる法律の研修をし、女性たち自身が地域の女性たちの問題解決に取り組む仕組みをつくっています。最末端の行政機関であるユニオン評議会の女性メンバーとも協力し、ジナイダ県内の弁護士さんたちの協力も得て、実際に早婚を未然に防いだり、夫の重婚で苦しむ女性の裁判を支援したり、と成果をあげています。
写真=木陰で行われていた女性人権委員のミーティング。活動費は皆の貯金でまかなっている。「私たちの地域の問題だから自分たちで解決するのは当然」と語るメンバーはとてもパワフル。男性二人はWEのスタッフ。
今回は、WEの事務所でちょうど行われていた3日間の女性の権利に関する法律研修、研修を受けて「女性人権委員」として活動する村の女性たちのミーティング、ジナイダ県内の弁護士連合会のミーティングなどを見せてもらいました。
弁護士さんやスタッフの熱意にも感心しましたが、心を動かされたのは、「女性人権委員」になることを自ら志願して研修を受けに来た女性たちの声です。
女性たちの中には、自らも夫の重婚で苦しめられたり、持参金問題でひどい目にあった末、離婚した、という人が少なからずいました。その彼女たちが自分の苦しみを乗り越え、研修を受けてほかの女性たちのために活動しようと決意したのは、「自分が経験したような苦しみを他の女性に味わってほしくないから」「私たちの経験を生かして次の世代の女性たちにはもっと自分の権利を自覚して生きてもらいたいから」というのです。
写真=研修を受けに来た女性たち。中央の赤と白のサリーがWE代表のショリファさん。
日本もバングラデシュも女性たちの思いは同じだな、と思いました。
WEのショリファさんは言います。「朝から晩まで忙しくても活動を続けられるのは、女性たちの笑顔が見たいから。私たちのところに来て、泣いて打ちひしがれて自分の窮状を訴えていた女性たちが、少しずつ力を取り戻し、困難を乗り越え、他の女性たちの支援ができるようになっていく過程を見ると、活動してきてよかった、と思う。」
これこそ、女性のエンパワーメントだと思いました。結婚や離婚をめぐる不公正な仕打ちで傷ついた女性たちにとって、一番力になれるのは彼女たちの境遇に心から共感して協力を惜しまない女性たち。そして話がこじれた際には、法の専門家の支援も重要です。
今回の訪問中、村の女性人権委員たちのミーティングの中で、「13歳の女の子と16歳の男の子の結婚を親たちが進めようとしている。どうも男の子の親が女の子の親の財産を狙っているようだ。話し合いが最終段階に入っているようなので急いだほうがいい」というケースが報告されました。それを聞いたショリファさんとユニオン評議会の女性メンバーは女性人権委員数人とすぐにその女の子の家を訪ね、早婚をやめるようこんこんと諭しました。しかし、親たちが聞き入れそうにないのを見ると、ちょうどその日の夕方行われた弁護士会のミーティングでこのケースを報告。弁護士さんたちが双方の家を訪ねるか、警察官を送る、という方策をとることが決められました。
写真=ジナイダ県の弁護士会のミーティング
バングラデシュでは、法的に結婚が許されるのは、男子21歳、女子18歳ですが、結婚登録時に年齢をごまかしたり、登録そのものをしなかったりで、ほとんど無視されている状態です。しかし、きちんと手順を踏めば、法の力をもって早婚を事前に食い止めることもできるのだ、と目からウロコの思いでした。
「法律研修を受けた地域の女性たちの委員会→ユニオン評議会メンバーやWEスタッフのサポート→弁護士会、と何重にもサポートシステムができてるのがすごいですね。地域の女性たちにとってはとても心強いはず」と感想を言うと「そうね、これはジナイダ・モデルとして自慢できるかも」とショリファさん。
来週末、ダッカ郊外の研修施設で、ダッカ事務所のスタッフやパートナー団体のマネジャーたちを対象に2泊3日のジェンダー・ワークショップを企画しています。ファシリテーターはAin o Sailsh Kendraのトレーニング・チームにお願いしていますが、ショリファさんにもリソース・パーソンとして参加してもらい、WEでの経験を話してもらう予定。
シャプラニールの農村プロジェクトでも、ショミティメンバーへの女性の権利に関する簡単な研修や、早婚や重婚、持参金などに反対するキャンペーン・演劇などは実施していますが、もう一歩踏み込んで実際に苦しい立場にいる女性たちを周囲の女性たち自身が支援し、話がこじれたときは地域の弁護士の助けを得ることができるような仕組みをつくっていけないものか…と思案しています。
写真=WE代表のショリファさん