また何日か更新が止まってしまいましたが、その間もバングラデシュ政界は激震続き。もういろいろなことが起こりすぎて理解するのも書くのも追いつかないよー、というところです。

4月9日、ウェストモントという電力会社の代表が、アワミ連盟政権時代、発電プロジェクト受託に絡み賄賂を強要されたとして、アワミ連盟党首で元首相のシェイク・ハシナ総裁を告訴。その驚きもさめやらぬ11日、今度は昨年10月28日にダッカ市内の政党支持者間の衝突で7名の死者が出た騒動に関して、ハシナはじめ幹事長のジョリルなどアワミ連盟幹部を含む14党連合関係者46名、BNP側の4党連合にいたジャマテ・イスラミの党首含め10名が、殺人容疑で訴追されました。

シェイク・ハシナは娘と息子が住むアメリカに滞在中で、4月7日にBBCベンガル語放送のインタビューを受け、「現暫定政権は非合法で非民主的」と大胆に選挙管理内閣を批判をしたことがニュースになったばかり。その直後のこの告訴・訴追劇。現政権の背後にいるコワーイ人(たち)の逆鱗に触れ、「おとなしくしておけば見逃してやったものを、楯突く気なら目にもの見せてやる!」とたちまちやられてしまった、という感じがしますね。殺人容疑の訴追のほうは、最初リストにハシナの名前は入っていなかったのが、後から警察が付け加えた、という話です。

ハシナ総裁は14日に帰国して容疑を晴らす、と言っていましたが、「名誉を汚すようなことにはしないから帰国は遅らせたほうがいい」という「ある政府高官のススメ」で帰国を延期。11日夜のTVではアワミ連盟幹部がインタビューに答え、「容疑は政治的意図をもったでっちあげで事実無根」と主張していましたが、声は小さいし肩はがっくり落ちている、という感じでした。

一方、息子タリクが獄中で腰痛に苦しんでいるというBNP総裁の前首相、カレダ・ジアも、弟夫婦など4人の人物以外の邸宅への立ち入りを制限され、事実上軟禁状態。国外脱出するという噂でしたが、それには否定のコメントを出しています。

1月11日の非常事態宣言から3ヶ月。最初のうちは、誰も手をつけられなかった汚職政治家が次々逮捕されるのを見て痛快に感じていましたが、ここへきて私はだんだん心配になってきました。当地の人権擁護団体、オディカールによれば、この3ヶ月で逮捕・拘束された人は推計12万人以上。法の裁きを受けることもないまま、警察などにより殺された人は79人。その中には、少数民族のガロのリーダーで、BNP政権時代、ガロの人々が昔から暮らしてきたモドプールの森を潰し、エコパークをつくる計画への反対運動を引っ張っていたチョレス・リッチル氏もいます。彼は獄中で拷問を受け、死亡しました。公表された彼の遺体の写真は全身痣だらけの痛ましいものでした。彼の死については、モドプールの森を守るために活動してきた環境保護団体なども抗議の声をあげています。

BNP政権時代も警察の特殊部隊が軽犯罪容疑者に銃を乱射したり、少数民族を弾圧したり、という状況は酷かったですが、わずか3ヶ月に12万以上逮捕という数字は尋常ではありません。

この選挙管理内閣のゴールは本当に「公正な選挙を実施し、民主的に国民の代表を選ぶ」ことに落ち着くのでしょうか。現政権は片っ端から人を逮捕したり獄中で拷問したりする一方で、フォクルウッディン主席顧問が「警察の改革は現政府の重要課題。警察は専門性と透明性を備え、奉仕的であるべきだ」と述べるなど、なんだかジキルとハイドみたい。言い換えれば力を行使しようとする軍の顔とそれをコントロールしようとする文民の顔。当初はスマートな文民の顔が前面に出ていたので、「国民の利益のために大胆な改革をする良心的な政権」と歓迎されましたが、だんだん軍の顔が表に出てきている中、ジキルとハイドのバランスがいつまで保たれるのか心配になってきます。そのうち「ええい」と自らマスクを剥ぎ取ったりして…。

「大半の国民が支持している」と言われてきた暫定政権ですが、殺された人の声は聞けないし、獄中の人の声は届きません。スラムを撤去された人の声も、路上を追われた物売りたちの声も、弱すぎて聞こえません。そう考えると安易に「国民の大半が支持」とは言えなくなりますね。聞こえる声しか聞いていないわけですから。

汚職・腐敗が上から下まではびこって、あらゆる公務がまともに機能しない社会も非常に困りますが、汚職を追放するためだから…と人権侵害に目をつぶっていると、そのうち大きなツケが回ってくるのではないか、知らないうちに大変なことが起きるのではないか(もう起きているのかも)、という怖さを最近感じ始めています。