洪水の多いネパール チトワン郡で進められている防災プロジェクト。今回は、養豚場を営むバラット・モクランさんのエピソードをご紹介します。
バラットさんの養豚場
バラット・モクランさんの毎日は新しく作った養豚場の仕事に追われています。「えさを毎日豚にあげる、そんな日々を幸せに思っているよ。この支援事業で川幅が20mに広がって土堤や付帯護岸も整備されて洪水の危険がぐんと減ったと思う。前よりも安全になったと思って養豚場を始めたんだ」バラットさんはこれまでの洪水に脅かされる日々が終わるならと思い、自分の土地を川の拡幅のために提供したそうです。
大切に豚を育てるバラットさん
彼は今、養豚場を大きくして生活を良くしようと一生懸命です。また、洪水のせいでこの地域から移住したタルー民族の家族がまた戻ってくることを願っています。このように、この事業は人々が持続可能な生活を送ることのできる基礎を築いています。そして、命を守るだけでなく豊かな農地も守り、結果、生計手段を増やしています。
バラットさんが暮らす集落の防災管理委員会の会議の様子
.
住民で取り組む洪水対策
2021年3月から河川洪水対策に必要な川の拡幅、土堤、付帯護岸工事などのインフラ設置を本格化させました。また、大雨時に上流地域から下流地域の住民への、また行政機関への連絡体制を見直し、防災研修などを実施して人々の防災能力を高めています。
河川を横断する道路を設置 。住民も多数参加している。
地域住民はインフラの維持管理も積極的に行い、集落ごとに維持管理基金を貯めています。また土堤の裏側に竹や植物を植えて土堤の強化に取り組んでいます。それがこれまで洪水に脆弱で、無益と思われていた土地を価値ある土地に変えると分かっているからです。「防災地図を作って集落の特にどこが危ないか、安全かを学んだよ。もし問題が起きたら助け合えると思う。」と、バラットさんが言ってくれたことを嬉しく思います。
モハン・サウ・カヌさん 69歳
「安全な明るい日々を得て」
モハンさんはナヤ・ラタ二集落の災害管理委員会の活発なメンバーです。1.7ヘクタールの土地で育てた米、麦、豆を地元の市場に自転車で売りに行って生計を立てています。彼には洪水の嫌な思い出があります。洪水で眠れぬ夜には、水と一緒に蛇が家の中にたくさん入ってきて追い出すのに苦労しました。収穫の時期に起きた洪水では米と麦が押し流されました。しかし、今は夜よく眠れるようになりました。「きっと農作物の収穫もきちんとできるでしょう。よかったよ」
プロジェクト・コーディネーター:ラビンドラ・シン・タクリ
会報「南の風」293号掲載(2021年9月発行)
本インタビューの掲載号のご購入はこちら
>>実施事業について 『ネパールの洪水が多い地域での防災支援』
洪水常習地域であるチトワン群マディ市で2020年2月に開始した3年間の洪水防災事業。ラクタニ川の洪水発生の仕組みを理解して上流から下流まで適切なインフラの設置を行いながら、地方行政であるマディ市と住民の防災能力強化、また双方の連携強化を行っている。直接裨益者720世帯3760名。外務省の日本NGO連携無償資金協力事業。