こんにちは。広報グループインターンの辻です。10月14日に第一回児童労働連続講座を開催しましたので、報告いたします。
認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事 甲斐田万智子さんをお招きし、世界(アジア)の児童労働の現状について、基礎からお話いただきました。
児童労働=子どもの権利が侵害されている
まず、子どもが働くことは、児童労働(child labor)と子どもの仕事(child work)の2つに分けられます。この2つの違いは、「子どもの権利が侵害されているかどうか」です。学校へ行って勉強をしたり、友だちと遊んだりする時間もありながら、自分の意志で働くことを子どもの仕事といい、南米などでは子どもが誇りをもって仕事をしているそうです。
一方、児童労働は長時間、低賃金・無給、危険な環境、などといった状況下で子どもが働くため、学校へ行く時間もなく、雇用主から暴力を受けたり、命の危険にさらされたりすることもあります。
最新の推計では、世界中で1億5100万人(5歳から17歳)の子どもが働いていると言われています。特に農林水産業に従事する子どもは1億700万人で、児童労働の約70%を占めています。他には家事使用人などのサービス業や、縫製工場などの工業への従事者がほとんどです。(*1)
2015年に設定されたSDGsでは、目標8.7で、「2025年までにすべての児童労働を撤廃する」と定められました。また、現在196の国が批准している、子どもの権利条約(*2)では第32条で、「経済的搾取(児童労働)から保護される権利」を認めています。
児童労働をなくすには社会全体を変えていくことが必要
それではなぜ児童労働はなくならないのでしょうか。その理由には2つの側面があります。1つめは、供給側、つまり子どもの親や、子ども自身です。親が様々な理由で経済的貧困から抜け出せず、親の収入だけで生活できない家庭では、子どもを働きに出して、少しでも収入を得ようとします。また、教育が十分でなく、親子とも子どもの権利を知らないことも要因の1つです。
2つめは、需要側、つまり雇用主です。大人を雇うより、子どもの方が従順で言うことを聞き、安い賃金で長時間働かせることができるため、子どもを雇います。また、社会全体で「貧困家庭の子ども、特に娘は働くもの」という固定概念があります。さらに、児童労働をなくそうという政治的意思や、児童労働から子どもたちを守る保護システムが欠如しているため、子どもが雇用主から逃げられないという現実があります。
貧しい家庭の子どもが働くことについて、親、雇用主、政府、自治体、本人、つまり社会全体で「仕方ない」という考え方になっているのです。この社会全体の固定概念を変えていくことこそが、児童労働のない社会をつくっていくカギになります。
例えばシャプラニールでは、バングラデシュで家事使用人として働く少女たちへの支援をしています。彼女たちはほとんど自分の時間も持てずに、朝から晩まで雇用主の家で働くため、学校へ行って勉強したり、友だちと遊んだりする時間がありません。そこで、彼女たちがヘルプセンターへ通えるよう、雇用主を説得します。センターでは読み書き計算や、裁縫、料理、性教育などを教えます。また、雇用主への家庭訪問や、地域住民への意識啓発を行うことで、地域全体の意識が変わるよう働きかけています。また、少女たちが都市部へ出て行かなくても済むようにするため、農村部においてはラジオを通して啓発番組を放送しています。
家事使用人は、長時間、休みなく働き、また、家のなかという密室性から身体的暴力や性的暴力を受けることもあり、最悪の形態の児童労働と言われます。しかしここにも、供給側と需要側の一致があるのです。供給側、つまり親は、自分たちよりも裕福な家庭で働けば、今よりもいい食事や生活ができるはずだと思いこんでいます。需要側は、貧乏な家の子どもを雇っても、悪いことをしているとは思っておらず、逆にいいことをしていると思っています。実際に、シャプラニール ダッカ事務所で働くアティカは、シャプラニールに入職するまで、子どもが使用人として他人の家で働くことを問題だと感じたことはなかったそうです。
わたしたち一人一人の行動で世界を変えることができる
それでは世界から児童労働をなくすために私たちにはなにができるでしょうか。まずは消費者として児童労働を使っていない製品を購入することができます。エシカル消費(*3)とも言いますが、フェアトレードの製品(シャプラニールのフェアトレード商品はこちら)は、生産者の顔が見えるので、安心して購入できますね。消費者が選択をすることが、国際的圧力になるので、消費者の役割は重要です。他には、市民として今回のような活動に参加し、児童労働にノーという意思表明をすることもできます。
一人ひとりの行動が、子どもが搾取され、権利を奪われる児童労働をなくすために重要です。自分にできることから、始めてみませんか?
シャプラニールでは、3月31日まで「あなたのはがきが、だれかのために。キャンペーン2017-2018」を実施しています。書き損じや古くなった年賀はがき・官製はがきをお送りいただくことで、シャプラニールの活動の支援になります。送っていただいたはがきは日本で換金して、働く子どもたちへの支援などに使わせていただきます。詳細はこちら
児童労働連続講座、他の回のレポートはこちら
・児童労働連続講座第二回レポート:SDGsからみる児童労働の課題
・児童労働連続講座第三回レポート:サプライチェーンの児童労働
・児童労働連続講座第四回レポート:NGOと企業の協働の可能性 ~シャプラニール×三菱商事(株)~
・児童労働連続講座第五回レポート:隠れた児童労働 ~バングラデシュで家事使用人として働く少女支援の事例から~
(広報インターン 辻)
―――
*1
ILO(2017)『Global Estimates of Child Labour: Results and Trends 2012-2016』
*2
1989年11月の国連総会で採択された。
・シーライツ 子どもの権利条約とは
http://www.c-rights.org/right/
*3
人と社会、地球環境のことを考慮して作られたモノを購入あるいは消費すること。
・エシカルな消費とは 一般社団法人エシカル協会
http://ethicaljapan.org/ethical-consumption
第一回:世界(アジア)の児童労働の現状
日時 | 10月14日(土)18:30-20:00 |
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内容 | 児童労働とはなにか、どんな子どもたちがなぜ働いているのか。世界、その中でも特にアジアの状況や課題など、児童労働に関する基礎的な情報についてお話しいただきます。 |
講師 | 甲斐田万智子(NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事、文京学院大学教授) 日本ユニセフ協会勤務、英サセックス大学大学院(IDS)留学、ブータン滞在を経て、1992年からインドに4年間滞在し、児童労働問題に関わる。1996年に国際子ども権利センターに入職。2003年からカンボジアに4年滞在し、子どもの人身売買、性的搾取、児童労働の防止活動に携わる。タイに3年滞在後、2010年に帰国。2012年から大学勤務。JANIC理事。共編著『小さな民のグローバル学:共生の思想と実践を求めて』(上智大学出版、2016)、共著『SDGsと開発教育』(学文社、2016)、共著『児童労働撤廃に向けて』(アジア経済研究所、2013)、共著『国際協力のレッスン』(学陽書房、2013)など。 |