昨日と今朝の新聞に「NGO、海外資金の50%を目に見える開発に使うべく要請される」という記事が載りました。バングラデシュ政府でNGO関係の業務を管轄するNGO局から通達が出され、海外からの資金を受け取るNGOは、少なくともその50%を学校建設、道路補修、用水路などの「目に見える」開発に使わなければならない、というのです。

新聞記事によると、7月3日に非常事態宣言下の軍・警察の行政補佐活動をレビューする会議があり、そこで決まったことだと。NGOの活動がその日の議題のひとつだったというのです。今後軍・警察はNGOの活動、とくに人々の意識向上とかキャンペーンといった「目に見えない」活動を厳しく監視し、人々の役に立っていない活動は中止させると。

そんな通達はまだNGO局から届いていませんが、これが本当なら由々しき事態です。活動費の50%を彼らが言うとことろの「目に見える」活動、つまり道路や用水路のようなインフラ整備に使うことが義務化されたら、NGOはやってられません。「人々の役に立っていない活動は閉鎖」といっても、それをいったい誰が、どんな基準で判断するのでしょうか。NGO活動のアカウンタビリティはもちろん重要ですし、成果をいかに客観的に評価するか、というのも大きな課題ですが、建物や道路のように「(ハードが)目に見える」ことイコールアカウンタブルだというのはあまりに幼稚かつ見当違いな話です。

学校を建設するのも、道路や用水路を整備するのも、政府がやるべき仕事のはずです。この国では、政府がやるべきでありながらできていない仕事、とくにそのうち、教育や保健医療、貧困層の生活向上、といった仕事を、ずいぶんNGOが補ってきました。それをインフラ整備までNGOにやれというのでしょうか。それなら政府の仕事はいったい何だというのでしょう。

病棟はあるけれど医者が来ない病院、校舎はあるけれど教師が来ない学校、役場の建物はあるけれど役人が来ない役所、そんなものがこの国にはあふれています。それをいかに機能させるか、お粗末な公教育や公共医療、人々に届かない公共サービスをいかに改善するかを政府は考えるべきです。こういったソフト面で政府の不足を補っているNGOの活動を制限し、ハードに資金を使うことを強要するなど、まったく現実のニーズに逆行しています。

軍主導の暫定政権の強引な「改革」、そのうちNGOにも手が伸びてくるかもしれないと思っていましたが、どうやらそのようです。もちろん、こんな通達が届いたらNGOの側も黙ってはいられませんし、NGOをパートナーとしている国際機関なども困ることになるでしょう。

暫定政権にはNGOの活動に口を出すより、腐敗しきったNGO局をなんとかしてもらいたいと思います。NGO局の役人に要求された賄賂を支払わないことで、今までどれだけ嫌がらせを受けてきたことか。

暫定政権になってからNGOで働く外国人職員に出されるビザ、通称Nビザの発行期間も大幅に縮められました。私は有難いことに4年のビザを持っていますが、後の駐在員がこんな長期のNビザをとれることは今後当分ないでしょう。3年駐在しようと思ったら、度重なるビザの更新の交渉にかなりのエネルギーを割かなければなりません。

通達が本当に届くのか、まだよくわかりませんが、シャプラニールのような海外NGOやそのパートナー団体が、ますますこの国で仕事がしにくくなることは確かなようです。