3月3日の土曜日、そういえば今日は雛祭だな、と思いながら当地の英字新聞、Daily Starを見ていたら、こんな小さな記事が目に留まりました。

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●2人の家事使用人の遺体収容される

警察は昨日、ダッカ市内のうウットラとダンモンディで、2人のティーンエイジャーの家事使用人の遺体を収容した。

ウットラの政府職員住宅のアブル・ハスナット宅から収容された遺体は、ナズマ・アクタル、17歳、キショルゴンジ県のクドゥス・ミアの娘。遺体は職員住宅3階のメイド部屋で、天井の扇風機に首を吊った形で発見された。この家で働くもう一人のメイド、ロージーの話によると、彼女とナズマは前夜、夜10時に就寝したが、朝ロージーが目を覚ますとナズマが首を吊っていたという。雇用者のハスナットによると、ナズマはこの家で使用人として7年働いていた。

また、ダンモンディ警察はバングラデシュ医科大学病院で昨日午後べつの家事使用人の遺体を収容した。ダンモンディのドクター・モスタク・ラジャ・チョウドリの家で使用人として働いていたアルポナ、14歳は、モスタクの家族の話によると、トイレの中のパイプに自分のスカーフで首を吊り、自殺を図った。アルポナがトイレに鍵をかけて籠もったまま長時間出てこないので、午後1時45分にドアをこじ開けたところ、中で首を吊っていたという。雇用主家族はバングラデシュ医科大学病院に彼女を担ぎ込んだが、医師に死亡を宣告された。

 遺体はそれぞれダッカ医科大学病院の検屍室に解剖のため運ばれ、2つのケースはそれぞれ不審死亡事件としてウットラとダンモンディ警察に報告された。

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Star Weekend Oct 6.2006.jpgああ、またか...と暗い気持ちになりました。バングラデシュでは使用人として働く少女たちの不審な死や明らかに暴力を受けたことによる怪我などが後を立ちません。新聞でこの手の記事が目立つようになってきたのは、必ずしもこういったケースが増えたわけではなく、以前からあったけれど隠されていたものが社会の意識の変化により表に出るようになってきたのだ、という見方もありますが、中には医師や弁護士宅で拷問されたという事件もあり、新聞記事を見てまさかここまで酷いことが、と目を疑うようなことも少なくありません。家庭という外部から隔絶されたプライベートな空間で起こることだけに、真相もなかなか判らず、事前にこういった事態を食い止めることも難しいのです。

写真=6階の窓から雇い主に突き落とされた10歳の少女。雇用主は銀行の重役だった。(Star Weekend Magazine 2006年10月6日号)

シャプラニールはこういった家庭の使用人として働く少女たちを対象にした実験的なプロジェクトを2006年7月から現地NGOのPhulki(フルキ)と共に開始しています。スラムの中にひとつ、政府職員住宅の中にひとつ、使用人として働く少女たちのためのセンターを設置し、インフォーマル教育や家事の基本、保健衛生教育、性暴力を防ぐための性教育などを行っていますが、最初のうちは雇用主を説得して少女たちをセンターに寄越してもらうこと自体が大変でした。フルキの担当スタッフは、目の前でバン!とドアを閉められたことも何度か。とくに経済的に下の方の階級の人たちより中流より上の人たち、中でも女性の雇用主を説得するのが大変でした。今も家庭訪問の努力は続けられていますが、先に始めたスラムの中のセンターに40人、後から最近始めた政府職員住宅の中のセンターに20人弱の少女たちが通ってきています。 

Korail Center.jpg今日もスラムにあるこの少女たちのセンターを訪問してきました。ここに来ている子たちの多くは、近くの政府職員住宅で使用人として働いています。これまで一人きりで他人の家の中で働いていた少女たち、「ここに来るとみんなに会えて勉強したり歌ったりできてほんとに嬉しいの!金曜日はセンターがお休みだから1日が長くて..」と話してくれました。

写真=スラム内のセンターに通う少女たち

本当ならこの子たち全員、すぐに仕事を辞めさせ、学校に行かせたい。でも、少女たちの家庭の状況、社会状況から言って、それはとても困難です。今は少女たちが基本的な読み書きやスキルを身につけ、少しでもよい状況で生活できるようになること、怪我や性暴力から身を守る術を教えること、奪われている子ども時代の楽しみをできる限り返してあげること、雇用主を説得し、彼女たちの休息や学びの時間を確保することなどを目指して活動をしています。もちろん最終的な目的は、子どもが使用人として働かされることのない社会を作ることであることは言うまでもありません。でも、それは一朝一夕にできる事ではなく、使用人として子どもを使っている雇用主や親たちの意識が変わらなければ実現しないでしょう。法を強化することも重要ですが、弁護士や国会議員が当たり前のように子どもを使用人として働かせている状況なのです。

ダッカだけで30万人と言われる使用人として働く子どもたち。その約8割は女の子と言われます。日本では女の子の健やかな成長を願う雛祭の日の新聞に、10代で命を絶つ少女の悲しいニュースが載るようなことがなくなるよう、社会全体を変えていく動きのきっかけを作ることができたら、と願っています。