先週の木曜日のこと。勤務時間中だというのに、事務所のスタッフが順番に出たり入ったりしています。
「どうしたのあなたたち。落ち着かないねえ」と聞いてみると…
「アパ、門の前で男の子が歌ってるの。その歌がすごく上手いんだよ。」とスタッフ。
どれどれ、と私も外に出てみると…
事務所の向かい側の建築資材の山の上に、少年が二人腰掛けていました。ひとりはルンギ1枚をたくし上げて短パン状にして着ただけ、もうひとりはシャツとジャージのズボンをはいていますが、このズボンは片足が長ズボン、片足が短パン、という状態になっています。
ルンギの子のほうが朗々と歌を歌っており、近所の人や向かいの建築現場で作業中の人たちやらが耳を傾けていました。
「最初、ドブの掃除をさせてください、と言ってきたんだけど、子どもにそんな危ない仕事をさせるわけにいかない、といったら、じゃあ歌いますといって歌いだしたんだよ。それがあんまり上手いんで感心してしまって、みんなでちょっとずつ小銭をあげたわけ」とスタッフたち。
どこから来た子なのか、なんで歌っているのか、事務所の入り口のところに呼び入れてちょっと聞いてみました。
「どこから来たの?」
「ボラ島」
「そんな遠くから来たの?!」
「うん」
ルンギの子のほうは、ボラ島(バングラデシュ南部のポッダ河の河口にある島)の出身だそう。両親は島にいてここでは叔父さんの家に身を寄せており、いっしょにいる子は従兄弟だということでした。
でも、どうもよく聞いてみると、この子は以前、私たちのパートナー団体のオポロジェヨ・バングラデシュがこの近くでやっているドロップイン・センター(シャプラニールが支援しているプロジェクトとは別のもので、宿泊施設はない)に通っていたらしいのです。子どもの口からはっきり「オポロジェヨ・バングラデシュ」と聞いてびっくりしました。
そこでは勉強もしていたのが、叔父さんに「あそこにいると外国に売られちまうよ」などと脅されて、連れ出されたそう。今は歌を歌ったり掃除をしたりして稼いでは、叔父さんにお金を渡す毎日だというのです。
どうも、この叔父さんという人、歌の上手いこの少年を小遣い稼ぎの道具にしているようです。少年はテレビに出るような歌手になりたいという夢があるそうですが、学校にもいっていないし、毎日歌いすぎて声が枯れ掛けています。
親戚だからといって子どもによくしてくれるとは限りません。子どもを使って稼ぐことしか考えていない人もいます。この子も、ドロップイン・センターに通い続けることができれば、勉強したり他の子どもと遊ぶこともでき、困ったことがあったときには、センターのスタッフに相談することもできたはずなのですが….
ストリートチルドレン支援事業担当のスタッフが、この少年に「もう1回ドロップイン・センターに通ってみたらどうだい?身体も清潔にして、勉強もしないと、将来歌手になれないだろ?」と話すと、神妙な顔で頷きながら聞いていました。
ひとしきり話したあと、少年たちは手を振って去っていきました。この子はしょっちゅうこの辺で歌っているらしいし、スタッフは少年の名前も聞いたので、一度少年がいたドロップイン・センターに連絡してみると話していましたが、子どもがセンターに行きたくとも叔父さんが納得しなければ阻止されてしまうかもしれません。
この子が歌っていた歌の内容は私にはわかりませんでしたが、スタッフの話によると、母親への想いを歌ったものばかりだったそう。
ボラ島にいる少年の母は今どんな気持ちでいるのでしょう。