先週末、コミッラの村に行ってきた総務担当のスタッフが、「半年ぶりに行ったら村の物価が上がっていてびっくりしたよ」と言います。「牛乳がキロ55タカもした。尋常じゃないよ」と。ちょっと前まではせいぜい30から35タカだったそうです。ダッカで売っているようなパックされた牛乳は、だいたい1キロ40タカ程度。
私たちの活動地のひとつであるマイメンシン県のイショルゴンジ郡でも、パートナー団体COLIの代表のヌルル・イスラムが言っていました。「最近、イショルゴンジのバザールの野菜はダッカより値段が高いんだよ、アパ」
なんでこんなことになっているのでしょう?
うんと大雑把に言えば、かつては地産地消が主だったものが、ほとんどの野菜や物資がダッカ経由で外から来るようになったことが原因のようです。ダッカの卸売り市場の野菜がイショルゴンジまで来れば、輸送コストもかかり、ダッカより高くなるのは当然。今年は二度の洪水や大雨のため、多くの地域で野菜が育たずダメになったので、よけいこの傾向に拍車がかかっているようです。イショルゴンジの人々も、野菜や卵などを地元で売らずにダッカにわざわざ売りに行く人が増えています。
先に書いたコミッラの牛乳は土地のものですが、総務担当曰く、この地域では乳牛を育ててミルクを売る人が多かったのが、海外出稼ぎ者が増えて海外にいる息子などが外貨を送ってくるようになり、牛乳を売る人が減ったとか。「それで供給が減り、需要が増えたんだろう」と彼は言います。彼が行った村にはイタリアへの出稼ぎ者を出している家だけで13世帯もあったとか。「イタリア?マレーシアとか中東じゃないの?」と訊くと、「最近中東じゃ賃金が以前に比べて安くなってるし、アジアは出稼ぎ者への制限が厳しくなってきたし。一方でヨーロッパは前より受け入れ条件がゆるくなってるところもあるから、最近はヨーロッパが人気みたいだよ」とのこと。
もうひとつ気になるのは肥料の問題。同じくCOLIのイスラムが言うには、肥料は多く使えば使うほどいいと信じている農民がいまだに多く、やたらとたくさんの肥料を使うのだそうです。そんなに肥料を使ったらかえって土がダメになってしまう、と言っても、「肥料を売っている店の主人がこれぐらい使えと言ったんだ」と言い張り、なかなか聞かないそう。そりゃ売るほうは商売ですから、たくさん使えと言うでしょう。
バングラデシュでは肥料の供給不足がよく問題になります。昨日も肥料が足りないらしい、という噂に恐慌を来たしたラジバリの農民たちが、政府の農業担当官の家や、肥料を保管している店の倉庫を襲うという事件があったばかり。「でも皆が適量の肥料を使えばバングラデシュの肥料不足もそんなに深刻にならずにすむはずだ。みんな高い金を使って大量の肥料を使い、土をだめにしている。」農業を専攻していたダッカ事務所のスタッフもため息交じりにそう言います。
郡に配置されている政府の農業担当官には、私たちの活動の中でも貧しい農民たちへの農業研修の講師を頼んだりしており、そういった研修の際には、殺虫剤を使わなくても炭液でかなり虫が防げることや、肥料の適切な使い方なども教えてくれています。しかしいかんせん、こういった知識の普及がまだ足りなすぎるのでしょう。
殺虫剤や農薬、化学肥料の無茶苦茶な使い方が気になるバングラデシュの農業。ウビニクなど有機農業や輸入でない土地の種の保存の重要性を訴える活動をしているNGOもありますが、大半の農民はハイブリッドの高収量品種と化学肥料を使った農業以外に見向きもしません。
バングラデシュの一般消費者が食の安全や環境問題に目覚め、安全な野菜を求めるようになり、農薬や肥料の量を農民が気にかけるようになるには、まだだいぶ時間がかかりそうです。