昨日のこと、シャプラニールが取り扱っている手工芸品生産者のサイクロン被害状況について、東京に送る文書をまとめていたプログラム・アシスタントのイルシャトが、パソコンのキーを打つ手を止めて、「ああ、こんな悲しい亡くなり方があるなんて…」とため息をつきました。
被害の大きかったボリシャル地域でジュート製品をつくっていた、ある女性の話です。お名前は聞いていませんが、仮にロヒマさん、としておきましょう。
ロヒマさんの家の裏には、大きなマンゴーの木がありました。枝ぶりもよく立派なこの木は、ロヒマさんの夫のお気に入りの木でした。バングラデシュでは木は貴重な財産です。果物の木は実を収穫して売ることもでき、大木になれば何かあったときには材木として高く売れます。ロヒマさんの夫はよくこの木を見上げながら、売ったらいくらになるかな、と話していたそうです。
サイクロンの夜、吹き荒れる嵐の中で、ロヒマさんの夫はこのマンゴーの木が心配になりました。ロヒマさんが止めるのも聞かずに、「マンゴーの木を見てくる」と言って家の外に出て行きました。マンゴーの大木はサイクロンの暴風に勝てず、ちょうどロヒマさんの夫が様子を見に行ったそのとき、根こそぎ激しく倒れ、ロヒマさんの夫はこの木に強打されて亡くなりました。
大好きだったマンゴーの木に打たれて命を落としてしまった夫。夏にはたくさんの実をつけてロヒマさんたちを喜ばせたこの木も、あるじと共にその命を終えることになりました。
今回のサイクロンではたくさんの人が倒木に家を潰される被害に遭いました。大事にしていた木の下敷きになって亡くなった、ロヒマさんの夫のような人も、たくさんいたに違いありません。