サイクロン復興支援のその後について、しばらくこのブログでご報告していなかったので、いったいどうなっているのかな、とお思いの方もいらっしゃることかと思います。
ウェブサイトのサイクロン救援のページに一覧表がありますが、11月15日に巨大サイクロンSIDRがバングラデシュ南西部を襲ったあと、ほぼ1ヶ月は食糧や毛布など生活物資の配布、セックスワーカーとして働く女性たちの子どもたちの支援センター運営などを緊急救援として行っていました。食糧配布などが一段落した後は、子どもたちのセンターを2ヶ月延長、10年生修了共通試験を受ける受験生のための教材配布、そして中等教育(6年生以上)を受けている子どもたちへの教科書配布(現在実施中)と続け、同時に今後の復興支援を検討するためのニーズ・アセスメントをあらためて行いました。
そのニーズ・アセスメントのレポートが上がってきました。アセスメントの方法は主に、被災地の様々なターゲットの人々を対象としたグループ・ディスカッションやインタビューです。今回シャプラニールが緊急救援を中心的に行った地域であるバゲルハット県ショロンコラ郡で、農民、漁民、思春期の少女、少年、高齢者、授乳中の女性、寡婦など対象を分け、それぞれグループで、または個別に話を聞きました。その結果、人々がいま何を必要としているかがかなり見えてきたのと同時に、緊急救援で取りこぼされていたニーズもいくつか明らかになりました。
レポートにはいろいろな人々の声が入っていますが、その中でも胸が痛んだのは思春期の少女たちの訴えです。「緊急救援でいろいろなものが配られたけど、誰も私たちに服をくれなかった」と彼女たちは言うのです。洪水にしろ、サイクロンにしろ、バングラデシュで緊急救援として配られる衣料はサリーとルンギ(腰巻)が定番。これらはどこでも手に入り、また一枚布で縫わずにそのまま使え、着る人のサイズも問わないので、緊急救援時に食糧と同時によく配布されます。シャプラニールも今回そうしました。
しかし、サリーを着るのはおとなの女性たち。結婚前の少女たちは通常サリーは着ず、サルワール・カミーズと呼ばれる長い上着とゆったりしたパンツ、長いスカーフの三点セットの衣装を着ています。サルワール・カミーズは身体に合わせて仕立てるのが普通。既製品を配布するにも対象者にあったサイズを配るとなると手間がかかるので、緊急救援で配布したという話は聞いたことがありません。
しかし、それは配る側の都合です。受け取る側から見れば、たとえば両親と思春期の少女、2人の弟、という5人家族の中で、「お父さんはルンギを、お母さんはサリーをもらった。弟たちもルンギがあれば大丈夫。でも私だけ服がない」という状況になっていたわけです。
かわいそうなことをしてしまった...と思いました。女性たちのためにトイレを、という意識はあったのですが、少女たちの服のことはあまり考えていませんでした。
同じ年頃の少年たちにも話を聞いていますが、「今必要なこと」に優先順位をつけてもらった結果、少年、少女とも第一位は「栄養のある食べ物」、第二位は少年は「勉強道具」、少女は「安全な家とトイレ」、第三位は少年、少女とも「服」でした。男の子も学校にルンギで行くわけにはいかないけれど、シャツやズボンがないのでしょう。女の子たちは仮住まいのセキュリティの悪さとトイレの不足に悩んでいます。第4位は少年は「安全な家とトイレ」、少女は「ミシンとトレーニング」、第5位は両者とも「サイクロン・シェルターをもっとつくる」でした。
だでさえお腹のすく年頃。被災後、肉や魚もなかなか食べられず、毎日米とダール豆ばかりでは育ち盛りにはさぞ辛いことでしょう。政府を通じて他国政府などのドナーが高校生に給食を出せればいいのになあ、と思います。シャプラニールのようなNGOが公立学校で給食を出す、ということは行政絡みもあってまず難しいので。少女たちが日々困っている「服」については、今からでもなんとかできたらいいな、と思っています。雨期に入ると洗濯物が乾かせなくなり、ますます着替えがなくなるでしょうから、できればその前に。
ダッカ事務所のマンパワーの限界を考えて、1月、2月は通常活動の次年度計画・予算策定の仕事を優先したので、本格的な復興支援はやや出足が遅れましたが、明日から筒井事務局次長も出張してきて、ニーズ・アセスメントの結果をもとに今後の支援内容を検討します。
被災地では各国のドナーからの資金を受け、様々なNGOが復興支援活動を行っています。しかし、「定番」的な活動がほとんどで、「ああ、いい点に着目したな」と思うような内容はあまり聞きません。もちろん「定番」的活動にはそうなるだけの理由があり、必要であればシャプラニールも実施するのですが、「定番」から漏れている、でも重要なニーズを拾うことを常に意識していたいと思います。