出張で今日からインドのコルカタに来ています。ムンバイでの同時多発テロはインド独立以来最悪と言われるような悲惨なものになってしまいました。今もゲストハウスの部屋でテレビに貼りついてニュースを見ているんですが、これらの番組ではBREAKING NEWSのサインと共に“War on Mumbai”“India’s 9/11”といった見出しが出て、ムンバイからのLIVE映像を前に様々な専門家やジャーナリストが今回のテロについて口から泡を飛ばす勢いで論じ合っています。
現地時間の27日夜10時半現在、確認された死者は125名、すでにタージマハルホテルにいたテロリストは全員が死亡するか捕らえられ、残っていた人質の人たちは避難したようですが、ホテルの建物からはまだ炎が上がっています。オベロイホテルではまだ30~40人の宿泊客が人質にとられており、人質解放のための作戦が続いている模様。警察官はすでに銃撃戦で14人が死亡、テロ対策部隊のチーフも死亡したと伝えられています。
約20人のテロリストがムンバイに潜入していたとみられるということですが、番組によってはこれほどの武器がどうやってムンバイの最大の中心地に持ち込まれたのか、どこからどう入ってきたのか、という分析が始まっています。犯人集団はいくつかのボートに分乗して海から入ってきたという話。
インドのニュース番組はこういった大事件があったとき、視聴者からのメールや電話のメッセージを画面にテロップで流すような工夫をしているものが最近多くなっているようですが、今見ているNDTVの画面に流れている視聴者メッセージにはインドの人々の今の気持ちが現れていて興味深く見ています。「今は非難合戦をしているときではない、皆の気持ちをひとつにしなければ」「政治家たちの日頃の言動は忘れよう。今はテロとの戦いに集中するときだ」「テロリストにインド人の精神をぶち壊されてたまるか」「これは新たな独立戦争だ-テロに打ち勝つための」といった内容がもっとも多くみられます。
分離独立時の暴力から始まり、こういったテロに端を発した宗教間対立の修羅場を数多く経験してきたインドの良識ある市民は、こういった事件がより根深い宗教対立に発展してしまうことをいつも心配しているのだと思います。「この事件を宗教間対立に火を注ぐ新たな機会にしてはならない、そんなことになってはテロリストの思う壺だ」というメッセージも見られます。
セキュリティへの不安・不満を表すメッセージも。「なぜタージマハルホテルやオベロイホテルのようなソフト・ターゲットがこんなに簡単に標的になってしまったのか?」「沿岸警備隊は何をしていたのか?」「もうたくさんだ!私は安心して暮らしたい」–それが多くの普通の市民の本音でしょう。
「政府よ目を覚ませ、インドは輝いてなどいない。苦い内戦の中にあるのだ」「これは世界の新興経済勢力に対する挑戦だ」「インドは本当に新興勢力(Emerging Power)なのか?」というものも。経済の中心地であるムンバイの、それもインド資本による5つ星ホテルであるタージマハルホテルやオベロイホテルは、いわば現代インドの自信のシンボル。とくにタージマハルホテルの特徴ある屋根はニューヨークの貿易センタービル同様、一種のアイコンといってよいかと思います。そこがもろに攻撃を受けた今回の事件で「インドの発展」「新興経済パワー」といったイメージに自ら疑問を投げかけたくなっている人も少なくないのでしょう。とくにムンバイ市民にとっては大きなトラウマになるでしょう。
さて、テレビ画面のムンバイからちょっと離れてコルカタの様子はというと、いたってのんびりしたもので平常どおりです。テレビだけ見ているとインド中が厳戒態勢にあるのか、といった気がしてしまいますが、今日コルカタに到着してみて全然そうでないことがわかりました。空港の警官の数も出入口付近に数人座っているだけでこれもいつもと同じだし、町の中でもほとんど警官の姿はありません。やっぱりインドは大きな国で、ムンバイはコルカタからはずいぶんと遠いんだよなーと思います。同じ国だけれどコルカタの人たちにとって今回のテロは全然身近な出来事ではないんだな、という感じです。
もっとも、よくあるパターンだと、テロが一段落したところでコルカタでも共産党政権である西ベンガル州政府与党、もしくは野党の呼びかけにより、「テロへの抗議のゼネスト」などが実施される可能性はあります。そうなったらコルカタっ子たちも「非常時モード」になるのかもしれません。
先ほど39人の人質がオベロイホテルから無事脱出、というテロップが出たのですが、あとで17人に訂正されました。まだ多くの人たちがホテルの中にとらわれているようです。TVニュースの情報も混乱しています。ユダヤ教関連施設が入っているビル、ナリマン・ハウスにもテロリストが立てこもっているとのこと。人質にとられた全ての人々が一刻も早く解放されますように切に祈ります。