シャプラニールの若手職員が集い、これまでの自分、これからのシャプラニールについて座談会形式で語り合いました。シャプラニールが50周年を迎えた今、日々、何を思い、何に向かって歩みを進めているのか。彼らの言葉と共に次のシャプラニールの形を考えてみませんか。

企画進行・インタビュー・文/髙階悠輔

Q1 自己紹介&わたしと「海外協力」との出会い

髙階悠輔(たかしなゆうすけ)
秋田県出身。学生時代にNGOでのインターンやアルバイトを経験。青少年団体での勤務を経て、2020年4月に入職。国内活動グループ・チーフ。

菅野冴花(すがのさえか)
群馬県出身。シャプラニールのスタディツアーで、それまで「途上国の人」だった存在が顔の見える「○○さん」に変わる経験をし、もっと人々の暮らしや文化のことを深く知りたいという思いから、大学卒業後、青年海外協力隊員としてネパールへ。その後、民間企業での勤務を経て、2019年6月に入職。ステナイ生活やネパール事業を担当し、現在は海外活動グループで在住外国人支援を担当。

下鳥舞佳(しもとりまいか)
千葉県出身。大学生時代、国籍や文化が異なる人との交流でアジアの国々の魅力に心をつかまれ、「大好きな国や人たちと一番いいかかわり方ができる仕事を」という思いから海外協力の世界に飛び込む。大学卒業後、NGO職員やネパールで日本語教師として勤務し、2018年にシャプラニールで広報インターンとして活動。2021年7月に入職。広報グループでウェブサイト運営や広報制作物を担当。

ダハルスディプ
ネパール・シンドゥパルチョーク郡出身。東日本大震災への寄付を集めたことで日本を通じて海外を強く意識。その後も大学でボランティアクラブをつくり、募金や献血のイベントを行うなど社会活動に広く従事。日本の大学院を修了後に民間企業での勤務を経て、シャプラニールの活動に共感し力になりたいという思いから、2022年2月に入職。国内活動グループで不要品寄付ステナイ生活を担当。


Q2 「市民による海外協力」って何だろう?

髙階:シャプラニールは団体名にただの海外協力ではなく「市民による海外協力」を掲げています。その意味を分かっているつもりでも、ふと「市民による」って何だろう?と思うことがあります。皆さんは「市民による海外協力」をどのように捉えていますか?

:シャプラニールの表す「市民」とは、一人ひとりの市民というだけではなく「市民社会」を意味していると思います。「市民社会」は市民が声を上げ行動を起こすところであって、いろいろな分野の最前線に行くことができる力を持つもの。ただ実際の業務にあたると、助成金を活用して事業を進めることもあるので、ある程度は制度の中で動かないといけないというジレンマはありますね。私は以前フランスの政府系の機関にいましたが、ODA(政府開発援
助)は政治的な思惑も絡んできますし、柔軟に動くことが本当に難しい。動き出しまでにすごく時間がかかってしまいます。ありがたいことに、シャプラニールはご寄付などの自己資金があるので、特に緊急救援を実施するときなどは、組織独自の判断でフットワーク軽く開始することができていると思います。

菅野:私は今の仕事を自分の親や親戚にうまく説明できていないんです。海外協力、ネパール、というような話をしてもすごく遠い世界の話と受け止められてしまう。でも、最近、叔母の職場にネパール出身の方が入ったそうで、それからは「生活で困っていることがあるみたいでなんとかしてあげたい」「シロップ漬けのドーナツみたいなものもらったんだけど、これ何?」な
ど話をすることが増えたんですよ。叔母にとって遠い存在だったネパールが急に生活に入ってきて、自分ごととしてネパールのこと、世界のことを捉えて動くようになった。これがまさに「市民による海外協力」だなと思うようになりました。海外に行ったかどうかに限らず、自分ごととして考えることができる人の輪を増やしていくということが「市民による海外協力」なのだと感じています。

下鳥:本来、市民であるということは、どんな国のどんな人にも約束されたステータスです。「支援する側」「支援される側」という壁を壊してフラットにできる力が、市民という言葉には強く含まれているはずです。私自身「かわいそうな人を助けたい」からこの世界に入ったわけではなく、同じ市民、同じ時代を生きている人に魅力を感じて、一緒に何かしたいと思ったことがはじまりです。こうした想いに共感できる人が集まってできた団体だからこそ、シャプラニールは人間味に溢れているなと感じますね。ただ「市民」という言葉には少し固さもあって、その人間味の部分をうまく表現できていない気もします。「人間による海外協力」…だとちょっと生々しすぎますが(笑)。もう少し伝わりやすい言葉を見つけたいです。

ダハル:市民は社会の中で一番力を持っているとも言えるし、一番力を持っていない存在でもあるはず。選挙の投票などの社会参画で社会を変える力は持っているけれど、社会的に弱い立場に置かれてしまっている人も必ずいます。どんな立場の人も同じ立場から声を上げられる「場所」であり続けることがシャプラニールの役目だと思っています。

髙階:立場をフラットにするという意味合いでは、シャプラニールの大切にする価値観の一つとして「援助しない」という言葉が出てきますよね。その一方で、例えば寄付を集めるときに「〇〇な状況が現地で起きています。ご寄付をお願いします」というように呼びかけることがよくあります。日本から南アジアへのやや一方通行な感じ
もしていて、本当に対等にできているのか不安に思うこともあるんです。

下鳥:支援という枠組みの中で完全に対等になるのは難しいかもしれません。ただ、それを自覚し、一方通行のかかわり方にならないよう、現地の声に常に耳を傾け、対話を続けることが大切だと感じています。どんな立場の人も、豊かな可能性を持っているという点は共通しています。広報担当として現地の情報を伝える上で、抱えている課題面ばかりではなく、人びとの持つパワー、魅力をきちんと伝えていくことを日々心がけています。

:文化交流のような形でもなんでも、日本にいる私たちが学ぶ立場になる機会をもっと増やすことも大事なのではないでしょうか。地域防災の取り組みなども含めてですが、バングラデシュやネパールの人たちの地域社会のつながりや役割など、学ぶことはすごくたくさんあるはずです。一市民である私たち個人ももっと学ぶ姿勢をもって、活動地の人とかかわることが必要だと感じます。

髙階:お互いに学び合うという姿勢はやっぱり大切ですよね。まだまだ私たちも現地のことを知らないですよね。想像でしかないのですが、近年はCOVID ー19で実施ができていませんが、全国キャラバン(注)のような学び合いや語り合いの機会が以前はもっとあったのかもしれません。海外協力のプロフェッショナルとしての役割が求められ、そして活動が専門化していることで、そうした交流の場が少なくなってしまっているのかもしれません。これは実際に事業を担う私たちにも責任があり、うまく両立させていきたいですね。

注)シャプラニールの支援活動を動を、毎回異なるテーマで全国各地の市民に伝えるイベント。1984年の開催以降30回以上の開催、1万人以上が参加されている。

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会報「南の風」297号掲載(2022年9月発行)
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