最近、NGOを取り巻く環境やその役割、これからの方向性といったことについて考える機会が非常に多くなっています。私がJANICというNGOのネットワーク組織で理事をしていることも影響しているのですが、実際にこうしたテーマを掲げた会議やセミナー等が今週もいくつか行われました。
ひとつはNANCiS(ナンシス、英語名:Japan NGO Action Network for Civic Space、正式名称:市民社会スペースNGOアクションネットワーク)の設立記念イベント。前身のNANSL(秘密保護法NGOアクションネットワーク。特定秘密保護法から共謀罪法に至る問題に対するアクションを起こすために立ち上がったNGOのネットワーク)を発展的に解消し、新たに設立されたネットワークです。
NGO/NPOなどの市民社会組織が活動する上で、市民が圧迫を受けず委縮せず、自由に言論、活動、結社できる社会の活動領域(これを市民社会スペースと呼ぶ)が狭められつつあります。その状況が悪化の一途をたどっているという危機意識から、こうした問題に対応するためのプラットフォームとして立ち上げられました。
市民社会の国際的連合組織であるCIVICUSが行っている市民社会スペースのモニタリング報告によると、調査195カ国中「閉ざされている」が20カ国、「抑圧されている」35カ国、「妨げられている」51カ国、「狭まっている」63カ国、「開かれている」26カ国となっており、日本は「狭まっている」にカウントされています(https://monitor.civicus.org/)。世界の人口のうち「開かれた」社会で生活しているのはわずか3%という状況に驚かされます。
シャプラニールもこのNANCiSの賛同団体となっており、市民活動の自由度を守るための取り組みに参加していきます。
もうひとつは「開発援助・人道支援における戦略的パートナーとしてのNGO」と題した国際セミナー。ODAの実施においてNGOと政府機関の協働がますます重要になっているとの認識に基づき、様々な政府機関がNGOを「戦略的パートナー」と位置付けているアメリカの経験から学ぶ、という趣旨でした。
セミナーで共有されたデータをひとつ紹介します。日本のNGOトップ45団体と、アメリカのトップ20団体を比較すると、平均予算は前者が6.3億円に対し後者が491.8億円、平均スタッフ数は前者が23人に対し後者665人と、大きな差があります。アメリカではODA300億ドルのうち70億ドルがNGOを通じて拠出されているといいます。そのアメリカでもかつてNGOは善意のボランティア団体で、開発援助における役割は非常に小さいものでしたが、政府による積極的なNGOの基盤強化支援の結果、現在の大規模かつ専門性の高い組織へと成長しました。セミナーの発言者からは「日本のNGOは待遇が低いため良い人材が集まらない、あるいは流出してしまい、セクター間の人材の流動性が低いままである」といった意見が相次ぎました。その発言の裏には「待遇改善のためにODAからの支援を」と言っているように聞こえます。
日本のNGOが規模を大きくし専門性を高め、効果的な事業運営の実現を目指すべきことは言うまでもありません。しかし、今でさえJICA草の根技術協力事業や外務省のNGO連携無償資金協力等のODA資金への依存度が高まっている状況の中、これ以上ODAへの依存が進むことに対しては相当の注意が必要であると考え、セミナーの中で発言しました。
先ごろ「NGO・NPOの戦略的あり方を検討する議員連盟」が発足し、このセミナーにも多数の国会議員が出席していました。議員や政府がNGOの役割を評価し、対等なパートナーとして認識を強めるのは喜ばしいことですが、NGOが市民社会の代表として市民から認められる存在になること、そしてODAだけに頼らない財政構造を確立することができなければ、「対等なパートナーシップ」とは名ばかりで単なる行政の下請けになりかねないと、改めて考えさせられました。