こんにちは。広報グループインターンの辻です。12月9日に児童労働連続講座第五回を開催しましたので、報告いたします。

シャプラニール 事務局次長の藤﨑文子と、シャプラニールダッカ事務所 アドボカシー・オフィサーアティカ・ビンテ・バキ(Skype出演)が家事使用人として働く少女支援について、ロールプレイ(役割演技)やシャプラニールがバングラデシュで運営する支援センターや啓発活動の事例を交えてお話しました。

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家事使用人の少女を取り巻く環境

まずは参加者がロールプレイを通して、少女や少女をとりまく人々の立場を想像しながら、家事使用人として働く少女が生まれてしまう要因を学びました。

ILOの推計によると、バングラデシュには家事使用人として働いている18歳未満の女の子は約42万人いると言われています。そのなかでも首都ダッカで働く子どもは約14万7000人です。そして全体の約25%が6~11歳で、さらに年齢の若い子もいます。

少女たちが直面する問題は深刻なものです。長時間労働や低賃金、教育や子どもらしく過ごす時間が奪われるだけでなく、雇い主からの暴力などの危険にもさらされています。では、なぜこのように少女たちが働きに出されてしまうのでしょうか。

雇い主にとっては少女の家事使用人はおとなに比べると少ししか食べないし寝る場所もとらない安価な労働力であり、いう事を聞かせやすいといった理由から少女たちを雇いたがります。一方、地方に暮らす少女の親は、結婚持参金を持たせるためといった経済的理由のほか、女の子はいずれ嫁いでしまうので教育を受けさせる必要はないという社会通念を持っている人が多く、都会へ働きに出してしまうのです。

このように、バングラデシュでは家事使用人として働く少女の存在が社会問題とみなされていないことが一番の問題だと言えます。

ヘルプセンターを通じた少女への支援と社会への働きかけ

ロールプレイに続いて、事務局次長の藤﨑文子からシャプラニールが実施している「バングラデシュの家事使用人として働く少女支援」の概要をお話ししました。

シャプラニールでは、現在ダッカ市内に3つのヘルプセンターを開設し、ベンガル語と英語の読み書き、算数の他に、保健衛生や性教育といった少女たちが生活に必要な知識を提供しています。また、雇用主との関係を向上させヘルプセンターに通いやすくするため料理やアイロンといった家事トレーニング、子どもらしい時間を過ごすため運動会などのレクリエーションも実施しています。2012年度からの5年間で、320名がセンターを利用し、120名が小学校へ編入しました。

このヘルプセンターは少女だけでなく、保護者や雇い主、地域住民へもアプローチし、社会全体を変えていくための活動もしています。保護者や雇い主へは、家庭訪問やセンターで開催するワークショップやイベント参加を通じ、学校へ通えるように働きかけます。

また、センターを開設している地域の自治会で家事使用人の少女に理解を深めるため話し合ってもらったり、行政とともに家事使用人として働く少女たちの権利が守られる政策の法案化を促すなど、社会全体を変える働きかけも同時に展開しています。

コミュニティラジオやジャーナリストとの協働事例

続いて、ダッカとスカイプでつなぎシャプラニールダッカ事務所アドボカシー・オフィサーのアティカが、「ラジオ・新聞等のメディアを通じた啓発活動」についてお話ししました。

この活動は、家事使用人保護法を成立させ、家事使用人として働く少女を減少させることを目的として始まりました。2012年、コミュニティラジオを通じて少女の送出元となる農村部での啓発活動がスタートし、2014年には市民社会が法成立のために声をあげるキャンペーンをダッカ市内で実施、2015年からバングラデシュ政府に対するアドボカシー活動を本格化させてきました。近年はラジオ・新聞等のメディアを通じ、都市を含む多くの市民に対し、家事使用人保護法に関心を持たせることに注力しています。

2017年12月までに、コミュニティラジオ5局、FM1局で放送を開始、2018年1月以降順次4局が加わり、計9局での放送がおこなわれます。家事使用人の少女にスポットをあてた番組は、これまでにないテーマで注目を集めました。現在推定180万人が番組を聴取しています。また、近所に少女が働いている、暴力をふるわれている現場を目撃したらどうしたらいいかという質問がラジオ局に届くようになりました。

こうした啓発活動と並行して、シャプラニールは政策立案者との対話も繰り返しおこなっています。人権委員会が国会に家事使用人保護法の法案化を求めるよう動いた結果、南ダッカ市に子ども権利ネットワーク委員会が、また、ダッカ管区レベルで児童労働福祉委員会が設置されました。

家事使用人として働く少女はバングラデシュの社会課題です。残念なことに、バングラデシュ政府は家事使用人として働く少女への法的対策への関心が低く、その強化を求めようとしても議員や行政などの政府系関係者へのアクセス自体が困難です。

そのため、ジャーナリストとの協働や、ラジオを通じての啓発活動によって一般市民にアプローチし、世論を喚起し社会全体の変化を目指す必要があるのです。2017年度には全国紙による掲載は38回、全国ネットワークテレビ局での放送17回と、シャプラニールの活動の報道数は年間で計60件を超えました。

私たちはこれからも、ラジオなどメディアを通じた啓発活動を通して、人々の行動を変化させ、社会全体を変えていくことで、子どもにとって安全で優しい社会を目指します。

最後に、アティカから参加者へお願いのメッセージが送られました。
「家事使用人として働く少女たちの問題は深刻です。日本でこの問題、そして私たちシャプラニールの取り組みを広げてはいただけないでしょうか。私たちと気持ちでつながり、支えてください。すべての子どもたちが心から愛され、尊厳を持った人生を生きられるように。」

 

左:事務局次長の藤﨑、右:ダッカ事務所職員のアティカ

左:事務局次長の藤﨑、右:ダッカ事務所職員のアティカ

シャプラニールでは、3月31日まで「あなたのはがきが、だれかのために。キャンペーン2017-2018」を実施しています。書き損じや古くなった年賀はがき・官製はがきをお送りいただくことで、シャプラニールの活動の支援になります。送っていただいたはがきは日本で換金して、家事使用人として働く子どもたちへの支援などに使わせていただきます。詳細はこちら

家事使用人として働く少女たちへの支援の詳細についてはこちら

児童労働連続講座、他の回のレポートはこちら
児童労働連続講座第一回レポート:世界(アジア)の児童労働の現状
児童労働連続講座第二回レポート:SDGsからみる児童労働の課題
児童労働連続講座第三回レポート:サプライチェーンの児童労働
児童労働連続講座第四回レポート:NGOと企業の協働の可能性 ~シャプラニール×三菱商事(株)~
(広報インターン 辻)


第五回:隠れた児童労働~バングラデシュで家事使用人として働く少女支援の事例から~

日時 12月9日(土)14:00-16:00
内容 シャプラニールがバングラデシュで実施する家事使用人として働く少女たちへの支援活動の中でも、特により多くの人々の意識や行動、そして社会を変えることを目指した活動について、お話しします。実際に現地でアドボカシー活動を担当するバングラデシュ人スタッフもスカイプで登壇し、現状について生の声をお届けします。※通訳あり
講師 course05藤﨑文子(シャプラニール 事務局次長)
大学卒業後、民間企業勤務を経て1997年シャプラニールに入職。フェアトレード部門勤務の後、バングラデシュのストリートチルドレン支援事業を担当。バングラデシュ、ネパール両国で事務所長を勤め、駐在計11年。

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アティカ・ビンテ・バキ(シャプラニールダッカ事務所 アドボカシー・オフィサー)
シャプラニールダッカ事務所職員。家事労働をする少女たちの未来を切り開くため、啓発活動の一環として地方ラジオ局における啓発ドラマの放送、国会議員や南北ダッカ市長への働きかけなど幅広く活動を行う。