家事使用人の少女支援のはじまり-あの頃、私たちは何を想い、考えたのか
シャプラニールの児童労働の問題への取り組みは、2000年、バングラデシュのストリートチルドレンの支援から始まりました。そして、2006年からは「家事使用人として働く少女支援」へ。
『シャプラニール児童労働反対キャンペーン2021』では、児童労働の実態を伝えるとともに、シャプラニールの児童労働への取り組みについてお伝えしています。今回は、「バングラデシュの家事使用人として働く少女支援」の事業立ち上げから事業の初期を支えた3名の元職員に、そのとき感じた児童労働の問題に対する想いや、家事使用人として働く少女たちへの想いをうかがいました。
あのとき、何を想い、何を考えたのか、紐解きます。
藤岡恵美子(ふじおか・えみこ)
2005年、バングラデシュ事務所長としてシャプラニール入職。「家事使用人として働く少女支援」の首都ダッカでの事業開始時の調査、企画、立ち上げ、そしてチッタゴン市での事前調査と企画を担当した。帰国後は、海外活動グループ、国内活動グループを歴任し、退職後はシャプラニール副代表理事を務め、2021年度より評議員。
キャンペーンTOP»「家事使用人の少女支援のはじまりーSTORY#03 「子どもたちの未来を切り拓く力」
STORY#03 子どもたちの未来を切り拓く力
ストリートチルドレン支援事業からの学び、そして新しい支援活動へ
女の子は使用人として働きに出され、暴力を振るわれたり、酷い扱いから逃げるようにストリートチルドレンになったりする子がかなりいたようです。そこから「子どもの中でも、男の子よりさらにリスクの高い女の子がストリートチルドレンになってしまうことを防止するためにも「家事使用人として働く女の子」という支援対象を決めていました。
事業立ち上げ当初から、ストリートチルドレンの青空教室にあたるような、少女たちが通える教室(現支援センター)を作りたい、という思いがありました。しかし、日頃、家の中に閉じ込められて一日中休みなく働いている少女たちにどのように接触したらよいのか分かりませんでした。
少女たちが買い物に行く市場で開いたらどうか、洗濯物を干しにくるアパートの屋上ではどうかなど、パートナー団体・フルキ(Phulki)と何度も議論を重ねましたが、仕事の途中で引き留めることになっては、結局雇い主に叱られてしまい長時間の利用は難しいだろうという結論に至りました。そこで、自治会や地域リーダーに説明して話を通した後、一軒一軒家庭訪問をして働いている子どもを見つけ雇い主を説得する、という非常に大変な正攻法を取ることにしました。
少女たちに「支援センター」に来て欲しい…!
家庭訪問を担当したのはフルキの女性スタッフたちでした。少女たちの雇い主からは、嫌味を言われたり、居留守をつかわれたり、ドアを乱暴に閉められたり、と初めの頃は本当に苦労の連続でした。こうした彼女たちの頑張りなしにはこの活動を始めることすらできなかったので、心から感謝しています。彼女たちも、子どもを持つ親である人が多く、使用人として働く少女たちの境遇を同じバングラデシュ人の母親としてなんとかしなければ、という強い思いがあったのだと思います。
また支援センターの運営は、活動に理解を寄せてくれた自治会の方々やモスクの導師など数多くの協力者なしでは実現しなかったと思います。 もう無理かもしれないと思ったこともあり、開所式を無事に迎えることができたことは非常に嬉しかったのを覚えています。
活動を通して見えてきたバングラデシュ社会を象徴する、ある少女の言葉
料理教室を開催したときのことです。料理を作るのに予定より時間がかかってしまい、遅くなって雇い主に怒られる、と少女たちがだんだん心配そうな顔になってきました。少女のうちの一人が皮肉な顔をして「水はいつも上から下へ流れる」と言いました。家の中では、力をもつ雇い主が、弱い立場の使用人の少女たちに暴言を浴びせたり、叱ったりすることを指して言った言葉を今でも鮮明に覚えています。
内に秘めた少女たちの想い
料理教室でビリヤニ(肉入りの炒めご飯)を作り終え、食べ始めた少女たち。美味しいね~とか、やっとできたね~とか、ワイワイ言いながら楽しそうに食べるだろうと想像していたのですが、実際は皆、シーンと静まり返り、黙って噛みしめるように食べていました。いつも食べ残しのようなものばかり食べさせられて、ビリヤニのようなご馳走を食べたことがなかったのかもしれないと感じた瞬間でした。
活動に寄せる想い
少女たちだけにサービス提供するのでなく、親、雇い主、地域の人たちなど周囲の人たちを巻き込み、その人たちの考え方や少女たちへの接し方を変えていくことを大事にしていました。子ども送り出す親や雇い主に対して攻撃的な態度をとるのでなく、その人の良心に働きかけて説得していく方が効果があります。でもそれは小手先のやり方ではなく、正攻法で地道に時間をかけて働きかけていくことが成功のカギです。
そしてなにより、家事使用人として働く厳しい境遇であっても、子どもたちが元々持っている力は大きく、その力を引き出すことができれば、少女たちは私たちが想像する以上のことを実現できるとわかりました。
支援センターにしばらく通って自信がついた少女が、「自分は掃除も前よりうまくできるし、アイロンかけもボタンつけもできる」と雇い主と自ら交渉して、お給料を上げてもらうことに成功したとき、とても嬉しかったのを覚えています。エンパワーされれば、少女たち自身が自分の運命を変えていける「力」があるんだ、ということを実感した瞬間でした。みんな向上心や自分の人生を楽しみたいという心を持っているのです。
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