この人に聞きたい
シャプラニールの活動に様々な形で関わるつながりのある方、国際協力、社会貢献などの分野で活躍されている方に、その思いを伺っています。
日本に生きる外国人の暮らしを追って
アジア専門ライター/編集者
室橋裕和さん
日本の外国人コミュニティを取材し、多くの記事を執筆されてきた室橋さん。最近では、自ら移民最前線都市、東京都・新大久保に住み、そこに生きる外国人について書いた本「ルポ新大久保」を出版されています。
今回は、室橋さんより、取材の中で見えてきた外国人の日本での暮らしや、そこで感じた思いなどを伺いました。
インタビュー・執筆 / 菅野 冴花(海外活動グループ)
ー外国人が集まる街、新大久保
菅野:室橋さんが日本に住む外国人を取材するようになったきっかけを教えてください。
室橋:7年ほど前まではタイで日本語情報誌の仕事をしていました。帰国してみると、コンビニや居酒屋でも働く外国人を見かけるし、東南アジアや南アジアといった人種の人も増えているしと、以前よりもたくさんの外国人が日本に住んでいることにびっくりしたんです。そんな中、タイの日本人コミュニティには日本食材の店やレストランがあったけど、じゃあ、日本の外国人コミュニティはどうなっているのだろうと思い、それがきっかけとなりました。調べてみると、例えば、西葛西にはインド人が、高田馬場にはミャンマー人が多いということが分かり、そういったコミュニティに足をはこぶようになりました。それが面白くて、記事を書いたところ、ウェブでの連載が決まり、本の出版が決まりと、仕事になっていきました。
菅野:数ある日本の外国人コミュニティの中でも新大久保に注目されたのはなぜですか?
室橋:ほかのコミュニティと比較して、一番ゴチャゴチャ感があったんです。アジアの街の独特な雑多感が好きなのですが、そういう感じが新大久保にはありました。コリアンタウンとしての印象が強いですが、今は、ベトナム人、バングラデシュ人、ネパール人など、さまざまな国の人が集まる街となっています。新大久保には、色々な国の食材店やレストラン、また海外への送金屋などもあり、彼らにとっては、色々な用を足せる場所なんです。そのように自然と外国人が集まってくる中心地には、何があるのだろう?と思い、実際に住んでみることにしました。
東京・新大久保の有名なスポット・イスラム横丁の様子(2021年 撮影 室橋浩一)
ー日本語がつなぐコミュニティ
菅野:確かに、私の日本に住むネパール人の友人も、ヤギ肉やスパイスを新大久保に買いに行っています。実際に新大久保に住んでみた感想はどうですか?
室橋:面白いですね。これだけ色々な人種の混在が進んだ街は、ほかにはないと思います。例えば、韓国料理のレストランで、韓国人と一緒にネパール人、ベトナム人の留学生が働いていたり、パキスタン人が経営している携帯電話屋でアフリカ人が値下げ交渉をしていたりということが日常の風景としてあるんです。しかも彼らは日本語を共通言語としてやり取りしています。多文化でバラバラ感のある街を、日本語がつないでいるんです。そういった日本語を軸とした多国籍集住地域というのは、珍しいことだと思います。実際に暮らしてみて、私たちが知らないところで、この街ではさまざまなインターナショナルな交流が生まれているということが分かりました。
菅野:文化への寛容さ、柔軟さというのがこの街の魅力だと感じました。一方で、外国人と日本人との交流というのはあるのでしょうか?
室橋:新大久保には昔から長く住んでいる方が多いのですが、そういった日本人のお年寄りと新しく街に入ってきた若い外国人との交流は、文化、宗教に加え、年代の違いもあり、難しいようです。とはいえ商店街の会合に外国人が入ったり、文化交流のイベントが実施されたりするなど、少しずつ交流の動きが出てきています。
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ー在留外国人の抱える課題
菅野:日本に住む外国人を取材される中で、COVID-19の感染拡大の影響は感じられましたか?
室橋:今まさにCOVID-19下における外国人というテーマで取材をしていて、色々な場所を回っているのですが、雇止めにあったり、失業して生活が困窮してしまったりという話をよく聞きます。特に日本語が分からないという人が苦境に陥っている印象を受けました。地方の製造現場ではそういう人が多くいて、日本語は少し話せるけど書類が読めない、そもそも近所の日本人との交流がまったくないので、病院の行き方がわからない、COVID-19にかかったけどどうしたらよいのか分からないというような事例がたくさんありました。
菅野:COVID-19の感染拡大で彼らが元々抱えていた課題が浮き彫りになった感じですね。シャプラニールも、最近、日本に住む外国人、特にネパール人の相談を受けることが多く、支援活動の一つとして取り組み始めました。日本に住む外国人をよく知る室橋さんが、シャプラニールに期待することはなんでしょうか?
室橋:次回作として、現在、日本のインド・ネパール料理店で働くネパール人の本を執筆しているのですが、その中で日本社会になじめずにいる彼らの帯同家族(妻・子ども)が多くいるということについても書いています。例えば、取材の中で出会ったある若者は、高校生の時に親の都合でネパールから呼び寄せられたものの、日本語ができないことから学校についていけずに中退してしまった。そのことで、親や社会を恨んで非行に走り、さらには、犯罪に関わるようなネパール人不良グループに入りそうになったという話を聞きました。幸いにも彼は、友人に誘われて入った夜間学校で、日本語を学んでいくうちに、更生することができたそうですが、彼が抱えていたような葛藤に直面している子どもは多くいると思います。そのため、シャプラニールさんには、そういった家族や子どもを取り巻く問題に目を向けていただけたらと思います。
菅野:帯同家族が日本社会から孤立しているという話はよく聞きます。ネパールでの長年の活動から現地特有の文化や教育制度も理解しているので、私たちができることがあるかもしれません。
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ーかわいそうとは書かない
菅野:室橋さんの本や記事を読んでいると、出てくる人に親しみが湧いてきて、自然と応援したい気持ちになります。取材や書き方などで大切にしていることはありますか?
室橋:取材の中で心掛けているのは、絶対に「外国人=弱者」とは見ないようにしていることです。彼らも同じように笑いもすれば、泣きもするし、怒りもする。私たちと同じであるという立場は忘れないようにしています。取材では、根ほり葉ほり聞くので入管と間違えられて警戒されることも多いですが、その姿勢によってある程度話してくれることもあるのかなと思っています。また、外国人は悲惨でかわいそうという重苦しいテーマのものは、読者も読み飽きているし、あまり読んでもらえません。多くの人に彼らの話を届けるためには、読んでもらえる入り口を広くし、エンターテインメントとして読んでもらいたいと思い、食や文化などを切り口としてあえてそういった書き方にしています。
菅野:シャプラニールも南アジアで現地の人々の暮らしを大事にしながら、支援活動を行ってきたので、とても共感できます。最後に読者へ一言、お願いします。
室橋:本やこの記事を読んで興味をもっていただけたら、ぜひ、新大久保に来てください。移り変わりが激しい街ですが、その活気が面白いところです。そこでノリのいいスパイス屋のおじさんと一言、二言話すだけでも、日本に住む外国人を知る一歩として十分だと思います。それが、何かのきっかけになったら嬉しいです。
会報「南の風」293号掲載(2021年9月発行)
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PROFILE
室橋 裕和(むろはし ひろかず) 1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年にわたりタイおよび周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。主な著書は「日本の異国」「バンコクドリーム」「おとなの青春旅行」「海外暮らし最強ナビ・アジア編」「ルポ新大久保」