この人に聞きたい
シャプラニールの活動にさまざまな形でつながりのある方、
国際協力、社会貢献などの分野で活躍されている方に、その思いを伺っています。
夜だけ開くパン屋さんがつなぐ、食と人
料理研究家認定NPO法人ビックイシュー基金共同代表・枝元 なほみさん
東京都新宿区神楽坂にある書店の軒先で週に3日、夜にだけ開くパン屋さんがあります。
その名もずばり「夜のパン屋さん」。この活動の発起人であり、テレビや雑誌などさまざまな
メディアで活躍する料理研究家の枝元なほみさんに、その背景を伺いました。
インタビュー・文/コミュニケーショングループチーフ 髙階悠輔
PROFILE
枝元なほみ(えだもと・なほみ)
料理研究家としてテレビや雑誌などで活躍するほか、認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表を務める。2020年にパン屋で廃棄になりそうなパンを販売し、循環をつくる取り組みとして「夜のパン屋さん」を有限会社ビッグイシュー日本と協力して立ち上げる。『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』(朝日新聞出版社)ほか著書多数。
劇団員、料理研究家、そしてビッグイシューとの出会い
大学生だったのがヒッピーカルチャーの終わりごろで、アメリカ文学を学ぶかたわら、演劇に打ち込んでいました。卒業後も劇団の研究生としてヨーロッパを公演で回ったり、ネパールやインドネシアなどのアジアの国々にも旅をしたりと、貧乏だったけれど、悲壮感はなかったですね。
転機になったのが32歳の時。劇団が解散してしまい、仕事がない、家がない、これからどうしようという状況になってしまったんです……それでも無国籍料理のお店で働いていた経験から、料理研究家の仕事をなんとか始めました。料理研究家の仕事を続けていたある時に「ビッグイシュー日本版(※)」のスローフード特集で誌面インタビューを受けたことをきっかけに、連載の仕事をもらったんです。元々ビッグイシューのことは知っていて素敵な活動だなとは思っていたのですが、その後あれよあれよという間に認定NPO法人ビッグイシュー基金の理事、そして共同代表にまでなってしまいました(笑)。
※イギリス発祥の雑誌。ホームレス状態にある販売者が路上で売ることで、売り上げの半分以上が販売者自身の収入になる。日本版は2003年より有限会社ビッグイシュー日本が発行している。
配るだけではなく、社会への循環を
2019年の秋に有限会社ビッグイシュー日本へ「みんなに配るだけではなく、循環するような形で使ってほしい」という寄付の申し出があり、相談を受けました。はじめはビッグイシューの販売者の中で料理経験のある方と料理をつくって販売することも考えたのですが、料理をつくるにはある程度修業が必要で、誰にでもできる仕事ではないですよね。お店の賃貸料など固定費や維持費もかかる。そのときにパン屋さんの店頭で余ってしまうパンのことを知ったんです。まだ食べられるのに廃棄されてしまうパンを、お店の閉店後に代わって販売する。これなら販売者の人もパンを売るだけで良い、設備投資も最小限で済む。パン屋さんにとってもフードロスを減らすことができるし、循環の形につながる!と思ったんです。
そこからは勢いですね。まずは販売用の車を中古車売り場に見に行ってすぐに購入。そして協力してくれるパン屋さんを探し何軒もお願いして回りました。しかし何軒あたっても決まらず辛い思いをしているなか、江戸川橋のナカノヤさんというお店を訪問して話をしたところ快諾。その後6店舗が協力してくれ、2020年の10月16日「世界食料デー」に合わせて無事にオープンすることができました。
人が「まざる」ことで生まれる関係性
今では協力店舗が22軒に増え、「夜のパン屋さん」も東京都内で神楽坂、飯田橋、田町の3カ所で販売を行っています。販売に携わっているのは14名。ビッグイシューの販売者さんもいれば、学生、シングルマザーの方など背景はさまざまです。みんなプライドを持って、いい意味で好き勝手に仕事に取り組んでいますよ。彼らをアルバイトとして雇用し、時給を払っています。また各パン屋さんに販売用のパンを引き取りに行くのにも1店舗あたりいくら、と決めて給与を支払っています。まだまだ収益をあげるには難しいこともあるので、早くうまくまわる形にしていきたいです。
昨年からは店頭での販売のほかに、「夜パンB&Bカフェ」という新しいプロジェクトを始めました。練馬区の築150年の古民家を会場として、食事をつくり提供、パンや野菜マルシェ、マッサージやハンドクラフトの教室なども開催しています。運営にはボランティアとしてかかわる色々な人がいて、みんなが「まざる」形になっている。それがいいんですよね。パンという料理を通じて、人と人が繋がり、循環していく。そんな関係性をこれからもっとつくっていきたいですね。
■ 実際に行ってみた!
枝元さんへのインタビューののち「夜のパン屋さん」神楽坂店へ。若者、仕事帰りの人、子ども連れ、白杖を持った常連さんなど、たくさんのお客さんが来店していました。店頭に並ぶパンは7店舗から届いたバラエティ豊かな品揃え。私もおいしくいただきました!
会報「南の風」300号掲載(2023年6月発行)