ネパールは東西に約1,000km、南北に最長約240kmと東西に細長い国です。そして、短い南北の間には北に世界最高峰8,848mエベレストを擁するヒマラヤ山脈がある一方で南のインド国境沿いでは海抜70mとなり、その高低差は大変激しいです。そのため、南の平野部を除いては山々が連なる地形となっており雨による土砂崩れに悩まされる地域も多いです。
私たちが防災支援活動を行っているチトワン郡はインド国境沿いの平野部に位置していますが、その北部には中間山間部を抱えています。そのため同じチトワン郡でも平野部のマディ市では洪水を想定した防災支援を、中山間部のロタール地域では土砂崩れを想定した防災支援を2016年11月から行っています。
今日はロタールの活動についてお伝えします。
ロタールは2015年の大地震で地割れが起きるなどした地域です。経済的に厳しい人々が多い地域で防災に関心を持ってもらえるか心配でしたが、住民たちから集落ごとに住民からなる災害管理委員会を結成したいとの声が上がり、現在、主に彼らを通じて活動を進めています。定期的なミーティングや研修で防災についての知識を学び、自分たちの地域の危険な個所について確認するなどしています。彼らとの話し合いの中で、学校周囲の崖が土砂災害発生のリスクが高いため対策をすることになりました。2017年に比較的高度の低いユーラリタールで、2018年に標高2000m近いカンダで土砂崩れ防止壁を設置しました。コンクリートで塗り固める高度な技術ではなく、ネパールでよく活用されている、網の中に礫を入れた籠の蛇籠を積み重ねて作った壁です。
ユーラリタールの学校周囲(2017年)カンダに蛇籠に使う網を運ぶ住民(2018年)これらの防止壁設置には、物資を山のふもとから運搬することから実際の設置作業まで住民の協力が欠かせませんでした。女性も含めて多くの人が関わってくれました。
ちなみに私がカンダに行くときはトレッキングシューズを履き、スティックを使い、完全に登山仕様で臨むのですが、カンダの人々はサンダルです。私が登りに7時間近くかかる中、彼らはその約半分の時間でたどり着くことができます。私が谷底に落ちないように次の足の一歩をどこに置くか考えながら急な斜面を一歩一歩降りている横を、人々はささーっと駆け下りていくこともありました。もう完全に脱帽です。そんな彼らでも、蛇籠の網を運ぶのは大変だったと思います。
カンダの土砂崩れ防止壁を補強するための植林を行う生徒たち
2018年の年末からはワッカランという、カンダよりは低いもののやはり山腹にある集落の学校校舎に沿って土砂崩れ防止壁を設置します。
ワッカランに続く道。ユーラリタールから徒歩1、2時間。左中程に見えるのが学校。校舎脇の崖沿いの地盤が沈下し始めて校舎にもひびが入り始めています。技術指導には日本の国土防災技術株式会社の方にご協力いただいています。測量を開始すると興味深げに住民たちが集まってきます。この学校に通う生徒たち。1時間半かけて通ってくる子どももいます。この支援活動はあと約1年実施予定です。その1年の間で目に見えるインフラ設置による災害リスク軽減のみならず、住民の防災の意識、行動を強くしていけることを目指します。
ネパール事務所長 勝井裕美