衛星写真からの情報を元に作成した地図を見ながら、住民からの聴き取りをする国土防災技術の眞弓さん。

衛星写真からの情報を元に作成した地図を見ながら、住民からの聴き取りをする国土防災技術の眞弓さん。


洪水による被害軽減を目的とした住民主体の洪水対策事業は、2016年11月から新たなフェーズに入りました。これまでチトワン郡のマディ市全体を対象としていくつかの住民組織の活動強化を進めてきたのに対し、これからの3年間は、洪水被害の特に大きい河川に集中し、その流域全体を見据えた洪水対策を進めていこうと考えています。これまでも多くのNGOや援助機関が洪水対策の堤防などを設置してきましたが、住民からは「上流の集落に堤防を作ったせいで、うちの集落で洪水が発生した」といった声が聞かれます。2016年7月にも当該河川で比較的規模の大きな洪水が発生し、犠牲者は出なかったものの、周辺の田畑に甚大な被害をもたらしました。その時の状況を見ても、最近堤防の設置を行った地域は被害をまぬかれたものの、その上流や下流で大きな被害が出ています。

現在進行中のプロジェクトでは、洪水が発生した場所に堤防を作るといった対症療法的な方法ではなく、河川全体をみて、どこでどのような対策を行えば最も効果的かを、流域に暮らす住民たちが集落を越えて一緒に考える、ということを目指しています。そのためには、洪水発生のメカニズムや具体的な対策の可能性を知らなければなりません。

先日、これまでもこの事業にアドバイスをしてくれている国土防災技術株式会社という防災専門企業の技術者と一緒に活動地を訪れました。衛星写真を元に当該河川が形成した扇状地の地下水が、洪水発生の原因となっているとの分析を裏付けるため、流域の井戸水の水位を計測したり、河川の上流から下流までくまなく歩き、岩石や土砂の状態を調べました。その結果、上流からの土砂流出の様子や、地下水がおよそどこから噴き出すか、そしてどの辺りで洪水が発生する危険性が高いかなど、大体の状況がわかってきました。

今までは過去の経験に頼ってきましたが、こうした科学的な根拠を元に洪水対策を考えることができるようになりそうです。これから、流域の住民がどうやって自分たちの暮らしを守っていくか、集落を越えた話し合いが始まります。

小松豊明(シャプラニール事務局長)

数年前の洪水で家が浸水した時の様子を話してくれた女性。いざという時に助けてくれる家族がいないことの怖さを教えられた。

数年前の洪水で家が浸水した時の様子を話してくれた女性。いざという時に助けてくれる家族がいないことの怖さを教えられた。