「ここは洪水がひどくて、一睡もできない夜を何べん明かしたか」グルメリ集落災害管理員会代表のマハトさんの言葉です。グルメリ集落は、2020年2月に始まったOne River One Communityを掲げる洪水防災事業で対象としている、チトワン郡マディ市のラクタニ川流域の集落の中でも最も洪水被害を受けやすい地域にあります。同じ集落のサハさんも子どもを連れて避難したことや、せっかくの食料も水浸しになってしまった雨期の話を恨めしそうに話します。
しかし、2020年の夏、この集落に暮らす35世帯は安心して過ごすことができました。防災事業で川の拡幅と土提設置などを行なったからです。この地域も新型コロナウイルスとその感染拡大対策としてネパール政府が2020年3月から取ったロックダウンの影響を受けました。そのような中でも集落の人々は感染予防対策を取りながらの土提の造成に参加しました。マハトさんは「朝7時から夜9時まで河辺にいたね。最初、川の拡幅に反対する住民もいたけど、これは自分たちのため、自分たちでやるべきことなんだって話し合うことができたよ」と言います。
ロックダウンの中でもこのような活動ができたのは、マディ市が防災に力を入れ始めて、この活動の大切さを理解してくれたからです。マディ市には9つの区災害管理委員会がありましたが実質的に機能しておらず、市が活性化させようとメンバーを入れ替えました。この事業では地方行政の防災能力強化も目指していますが、市が積極的な動きを見せていると感じています。また、グルメリ集落災害管理委員会は作られた土提などの修繕費用の積み立てを行うことを決めました。新型コロナウイルスという課題がある中では思った以上に前に進めたように思います。
キル・ガレ(ネパール事務所 シニア・プログラム・オフィサー)
この情報は会報291号に掲載しています。(2021年3月発行)
>>実施事業について 『住民主体の洪水リスク削減に向けた取り組み』
洪水対策が不十分な川の近くの集落で、これまで住民が自主的に行ってきた活動を支援する形で洪水の被害を軽減する活動を行っています。住民と一緒に集落ごとの防災活動計画を立て、行政等からの支援とつなげて堤防を設置するなど行政との連携を強化し、住民自身と地域の防災力を伸ばします。