私たちが気候変動による水害リスクに強いコミュニティづくりに取り組む、ネパール・モラン郡での洪水防災事業について、現地パートナー団体であるRRN(Rural Reconstruction Nepal)モニタリング・評価担当のアビジェック・̚カドカさんにご報告いただきました。


雨期のテリ1川(左)とテリ2川(右)

私たちは、ネパールの最も東の州であるコシ州の南東部に位置するモラン郡ウルラバリ市で、テリ1川、テリ2川という二つの河川の流域を対象とした防災プロジェクトを実施しています。
モラン郡ウルラバリ市には、北部から南部まで約11の河川が流れ、ほとんどの集落がこれらの河川に囲まれているため、洪水の危険性が高く、毎年被害が報告されています。ウルラバリ市は総面積の約80%が農地で、農業で生計を立てている住民が多く、特に5月〜9月の雨期には人命、家屋、家畜、農地や農作物に重大な影響をもたらします。

車両が川を横断する様子。橋はない

この事業では、①「各集落と地方行政の災害管理能力の強化」と②「流域治水(※1)の視点に基づくインフラ設置」に力点を置いています。

①では、地方行政や各集落の災害管理委員会(※2)の設置と定例会議の実施や、地域防災計画や災害対応計画の策定の支援を始めています。また、2023年2月までチトワン郡マディ市で実施していた防災プロジェクトの事業地視察をウルラバリ市役所や地域住民と行い、地域で連携して取り組む防災の重要性についての学びを深めました。

※1 治水:洪水などの水害を予防するための各種の施策
※2 地域の防災計画の策定や災害発生時に緊急救援などの役割を担う

災害管理委員会のミーティングの様子。女性や障害を持つ人など多様な人が参加

②では、対象地域の災害影響の現状について現地調査を行いました。今後日本から洪水に対応できるインフラ整備の専門家を招へいします。また、現場検証に基づき川の流路を確定させるために石積み擁壁や付帯護岸のインフラの設計図を作成し工事を開始していきます。

マディ市の事業地視察の様子。市役所担当者などから話を聞いた

これらの取り組みを通じて、洪水リスクが軽減し、住民の生計が向上し、誰もが安心して生活できる日々をつくることをめざしています。


住民の声

暮らしを脅かす洪水

ルマ・パリヤルさん

私は、息子と娘の3人家族で暮らしています。小作農としてマリーゴールドの花を栽培して生計を立てています。私の家と畑は川のすぐ側にあり、雨期には洪水への恐怖と不安に悩まされています。特に子どもたちへの影響が心配です。というのも、命や怪我の危険だけでなく、年に何度も起こる洪水で道が閉ざされてしまうので、子どもたちを安心して学校に行かせることもできないからです。

これまで行政の支援もなかったので、このような状態を受け入れるしかないのかと諦めていましたが、この事業は希望をもたらしてくれています。

災害管理委員会で住民と話すRRNスタッフ(右)

報告 / モニタリング・評価担当(RRN) アビジェック・̚カドカ

活動概要

ネパールのモラン郡ウルラバリ市で、各集落と地方行政の連携強化を行い、流域管理の概念に基づいた防災の取り組みを行っている。堤防といった洪水対応インフラの設置を行うとともに、防災を地域住民の社会経済活動の中に組み込み、地域全体の持続的な発展をめざす。

会報「南の風」302号掲載(2023年12月発行)