ノルシンディ県ライプラ郡チャンドプールは、メグナ川にできた中洲の島です。バングラデシュの識字率は全国平均74%ですが、チャンドプールにおいては25%しかありません (バングラデシュ統計局、2011)。中洲地域にある公立学校は、バングラデシュ本土から地理的に孤立しているため、中洲への移動手段が限られていたり、長期的に定住を希望する人も少ないことから、慢性的に教員が不足しており、県や郡の教育機関からの管理・監督も不十分です。さらには貧困や親の教育に対する意識の低さから、多くの子どもたちが教育を受ける権利を享受できていません。
本事業では、学校に補助教員を置き、教員が学校に来られない日には代わりに授業を行ったり、就学年齢になった子どもの家庭を訪問して入学を促したりするなど、地域で重要な役割を担うようになっています。また、家に帰ってから勉強を教えてもらえる環境にない子どもたちのために、勉強の補習や宿題ができる「ラーニングスポット」をつくり、子どもたちが学習の習慣を身につけることができました。
この地域はもともと仕事がなく経済的に厳しい世帯が多く暮らしています。本事業では、貧困等を理由に子どもたちが教育の機会を奪われることがないように、地方行政との関係づくりを通じて、住民が個別ケースに応じた支援制度を円滑に利用できるような働きかけも行っています。このように、学校内だけではなく、地域全体で教育の重要性に対する意識を向上させることで、中洲の子どもたちの成長を地域で見守る社会の仕組みをつくることをめざしています。
住民の声
私には役割と責任がある
アブドゥル・ラシッドさん
私はシャダガルカンディ小学校の学校管理委員会のメンバーです。実はこの事業が始まる前は、メンバーの役割を十分に理解できていませんでした。
今では、学校や地域の役所に足を運んで子どもたちの入学手続きを手伝ったり、村の貧しい家庭を訪問して学校に行くことの大切さ、教育の必要性について保護者に話をするようになりました。疎外された中洲地域にある私たちの村の子どもたちの教育状況を改善することが重要であることに、この事業を通じて気づきました。
報告/プロジェクト・コーディネーター(PAPRI) モハマド・アラウッディン
活動概要
2021年3月開始。事業地はディナジプール県とノルシンディ県の2カ所。子どもへの直接的な初等教育支援だけでなく、行政や地域住民に対し地域の課題への気づきを促し、地域の教育環境の改善に取り組む事業。本記事ではノルシンディ県の中洲に位置する地域での活動を紹介。2024年3月に終了予定。
会報「南の風」303号掲載(2024年3月発行)