5月17日から28日まで、今後の地震対応方針について検討するため、ネパールへ行ってきました。被災地の状況とともに、政府や海外からの支援団体および民間団体の動きについて知るため、政府機関、支援団体のコーディネーション会議、NGOやボランティアグループなどを訪問しました。その中のいくつかについて報告します。現在の地震対応の状況について知っていただく上での参考になればと思います。
1.ボランティア
日本では、大きな災害が発生すると、当該地域の社会福祉協議会が中心となって、全国から集まるボランティアのコーディネーションなどを行う「災害ボランティアセンター」を立ち上げる制度が出来上がっています。今回ネパールでも市民が様々な形で食糧や毛布などを被災地へ届ける動きがありました。親戚や知り合いを助けるために、あるいは職場や組織ごとの支援活動があったほか、普段はつながりのない有志の若者が集って支援活動にあたる、といった動きもありました。
▲市内の中心地の広場ラトナパークに出来たキャンプ。ここには様々な団体が食糧や飲料水の配給、清掃などの活動に来ているが、必ずしも継続的ではないようだ。私が訪ねた時は、地方の学生グループが清掃活動を行っていた。
▲カトマンズ中心地にある自宅が被災し、他の部屋を借りているというジベンドラさん。彼が代表をしている居住地区の青年クラブの活動として、被害の大きかった地域へ食糧やビニールシートなどを届けているという。
▲Yellow Houseというホテル・レストランを拠点とし、国内外の若者が集まって食糧配給などを行っている。地縁・血縁等によらないボランティア活動であり、いわば自然発生的にできた「災害ボランティアセンター」と言えるだろう。
▲ネパール政府がボランティア活動を行う様々な団体を集めて開催した会議の様子。政府としてもボランティアの力が必要であり、「コンペティション(競争)よりコーディネーション(協力)を」と呼びかけた。
2.居住スペースの確保
本格的な雨期が近づいていることもあり、雨風をしのぎ当面の生活を送るための居住スペースの確保が緊急の課題となっています。日本であれば、災害発生直後に避難所が設置され、数週間から数カ月程度で仮設住宅が建設され、入居が始まります。ネパールでは公的な避難所もなく、各自の努力でビニールシートなどを利用した簡易なテント生活を送っている人がほとんどで、政府による仮設住宅の建設も行われません。先日ようやく家を失った世帯に対して仮の住居の建設費用として15,000ルピーを支給するとの発表がありましたが、いつ、どのように誰に対して支給が行われるのか、まだはっきり伝えられていません。
国連機関などが主導する形で、分野ごとのコーディネーションを行う「クラスター会議」が開かれていますが、居住スペースの確保に関しては、赤十字連盟が中心となって「シェルタークラスター」会議があります。これまではテントやビニールシートの配給に焦点が当てられていましたが、竹や木材で骨組みを作り、鉄板の屋根を載せる形の仮設住宅をいかに早く設置するかが課題となっています。
▲5月末にカトマンズで開かれたシェルター・クラスター会議。会場に入りきらないほどの団体が集まった。政府担当者からは、「各支援団体が仮設住宅支援を行うと思うが、不公平感が出ないよう、政府の標準に照らして大きな違いがないよう配慮してもらいたい」との要請があった。また、恒久住宅の建設についても考えなければならないので、そこへの支援も検討して欲しいとの要望が出された。
3.被災状況、支援状況の違い
今回、何カ所かの被災地を訪問し、状況を見てきましたが、やはり被害が大きいと言われている地域に行くと、その被害の深刻さに言葉を失ってしまいます。一方で、割合としては被災世帯が少ない地域でも、住居を失った人々が少なからずいることは間違いありません。マスコミの報道などで取り上げられると支援が集中し、そうでないところにはほとんど支援の手が届かない、という構図が今回も現れています。
▲最も犠牲者が多かったシンドゥパルチョウク郡の中心部の様子。比較的新しいと思われる建物も傾き、崩壊している。
▲シンドゥパルチョウク郡の中心部の空き地には、赤十字の大規模な医療施設が開設されていた。
▲カトマンズ郡内でも被害が大きかったと言われる、古くからのネワール建築が多く残る町ブンガマティでは、ブルトーザーなどの重機、軍隊や警察が投入され建物の取り壊し作業が既に始まっていた。たくさんのボランティアも入り、道路の片づけなどを行っていた。
▲一方、隣の町コカナでは、全く片付けは手が付けられておらず、道は瓦礫でふさがれたままだった。
▲食糧配布を行ったキルティプールのパンガ地区では子どもを対象とした心理ケアプログラムが行われていた。しかし、この隣の地区ではこうしたプログラムが行われていないとの訴えが後からあった。
復旧へ向け、仮設住宅など物理的な支援のほか、被災者の心理ケア、収入源の確保、コミュニティの維持、情報伝達手段の確保など、さまざまな課題があります。さらに、地震に強い建物や地域をどのように作っていくのか、復興へ向けた取り組みも同時に進めていかなければなりません。
事務局長 小松豊明